「砕けた王冠の影」
イリアンドロス王国の兵士たちは、フードをかぶった人影が朝霧の中を進んでくるのを見て、巨大な青銅の門を開けた。
「あれは…?」衛兵が呟いた。
「ああ…アストラ・ノクス。ハルトの影の助言者だ。」
アストラの存在は静寂を招いた。
彼は速くも遅くもなく、まるで浮いているようだった。
彼の紫色の瞳は、かすかに輝き、あらゆるものを分析していた。
中央の中庭に着くと、数人の貴族が本能的に後ずさりした。
アストラ・ノクスは決して微笑まなかった…そして、理由もなく来ることはなかった。
伝令が声を上げた。
「アストラ・ノクス、ハルト皇帝の使者!アガメントス王がお迎えいたします。」
アストラは軽く頭を下げた。
「彼のところへ案内してください。」
アガメントスは赤い大理石の玉座に座った。
彼女の目には疲労が…そして、民でさえ感じ取れるほどの、くすぶる怒りが浮かんでいた。
「アストラ・ノクス」王は言った。「ハルトが君のことを話していた。君は…彼の忠実な影だと言っていた。」
「私は彼に仕えるために創造された。」アストラは冷静に答えた。「私の忠誠は絶対だ。」
王は彼女に近づくように合図した。
「重大な用事で君を召喚した。
理解できない用事だ。」
アストラは頭を下げた。
「誰か死んだのか?」
アガメントスは拳を握りしめた。腕の血管が、張りつめた糸のように浮き出ていた。
「我が兄…レアンドロス王…
征服者…
我が国が尊敬する最強の男…」
王は深呼吸をした。
「彼は死んだ。」
アストラは目を細めた。
「ハルトは病気だと言っていた。
でも…オーラが不安定な様子はなかった。」
アガメントスは玉座の肘掛けに拳を叩きつけた。
「病気じゃない!
毒じゃない!
武器じゃない!」
彼は立ち上がり、前後に歩き回った。
「彼の体には…傷跡はなかった。
血痕もなかった。
争った形跡もなかった。
魔法もなかった。」
アストラは目を閉じ、考え込んだ。
「つまり…原因は異世界のものだったのか。」
アガメントスは絶望の表情で彼女を見た。
「その通り!
そしてあなた…あなただけが、一体何が起こったのかを私に教えてくれるかもしれない。
私の兄は戦いにおいて怪物だった!
痕跡を残さずに彼を殺せるものなどない!」
アストラは黙って前に進んだ。
「遺体はどこだ?」
「氷室の中だ。
近づく者は皆、何かを感じずにはいられない…
嘔吐したり、気絶させたりする何かだ。
司祭や魔術師でさえ逃げ出した。」
アストラ・ノクスは首を傾げた。
「封印…もう動いている。」
「封印?」アガメンソスは眉をひそめた。「何のことだ?」
アストラはゆっくりと目を開けた。
目は深い紫色に輝いていた。
「ハルトとオーレリアが子供を産んだ日…古代の刻印が目覚めた。」
王は背筋に寒気が走るのを感じた。
「つまり…兄の死はハルトの子供たちの誕生と関係があるということですか?」
アストラはすぐには答えなかった。
それから、恐ろしいほど冷静に言った。
「死ではない。」
「それからどうなったの?」
アストラは天井の向こうに何かを見たかのように見上げた。
「それは奪われた。」
王は顔面蒼白になった。
「主張?誰が?」
アストラ・ノクスはためらうことなく答えた。
「何かが戻ってくるからだ。
存在すべきではない何か。
神にも人にも属さない何か。」
部屋の静寂は絶対的な静寂に包まれた。
「アガメントス王…兄の死は最初の警告です。」
アガメントスは歯を食いしばった。
「では、二番目の警告は誰でしょう?」
アストラは彼の目をまっすぐに見つめた。
「太陽と月の継承者に近づく者です。」
アガメントスは身震いした。
「ハルトの子ら…」
アストラは頷いた。
「今、これを止めなければ…あなたの王国にも、私の王国にも、そして人類にも…未来はない。だから私は来たのです。」




