『空が引き裂かれた夜』
すべては、静寂の中にあった。
アウレリアは深く眠り、腕で自分の腹部を守るように抱いていた。
ハルトはその傍らに座り、魔導ランプの柔らかな光の下で報告書に目を通していた。
部屋の反対側では、カオリがソファでクッションを抱きしめながら眠っている。
廊下では――
マグノリアが、彼女なりのやり方で「警戒」しつつ、豪快にいびきをかいていた。
ハルトは小さく息をつく。
「……ようやく、静かな夜だな」
――その瞬間。
BAAAAM
見えない衝撃波が宮殿を貫いた。
壁が震え、灯りが一斉に消える。
カオリが反射的に跳ね起きる。
「――攻撃! 今の、確かに感じた!」
扉をぶち破る勢いでマグノリアが飛び込んできた。
「おい!!
どこのどいつだ、私の昼寝を破壊したクソ野郎はぁ!!」
ハルトは即座に立ち上がる。
アウレリアが目を開き、荒い息を吐いた。
「ハルト……
……来たわ」
「……“来た”? 誰が?」
アウレリアの身体が震える。
「赤ちゃんを狙っている……
あの“神”よ」
その瞬間――
空気が、ガラスのように裂けた。
影に包まれた存在が、壁を壊すことなくすり抜けて現れる。
異様に背が高く、細く、
虚無のように白い眼。
『HEREDERO……
TAKE……MUST……』
アウレリアが叫ぶ。
神の腕が、彼女の腹部へと伸びた。
ハルトの身体から黄金の光が弾ける。
「――ふざけるな!!」
即座に展開される、金色の結界。
KAAANG!!
神の手が、盾に叩きつけられた。
部屋全体が揺れる。
カオリが刀を抜く。
「ハルト! アウレリアを連れて下がれ!
私が足止めする!」
マグノリアがチェーンガンを構える。
「WOOOO!!
やっと面白い展開だぁ!!」
だが神の声は、骨の奥まで突き刺さった。
『OMAE……IRAN
HITSUYOU……NASHI
NASCIDO……DAKE』
影から、もう一本の腕が伸びる。
再び、アウレリアへ。
ハルトの怒りが爆発した。
「――近づくなああああ!!」
GACHA・INVOCATION
《ローテ・ディアマンテ》
黄金の陣が床に展開され、
部屋は太陽のような光に包まれる。
ダイヤモンド・ジャイアントが顕現し、
山同士が衝突するような咆哮を上げた。
マグノリアが口を開ける。
「おい!?
こんな室内で呼ぶな!!
部屋が壊れるだろぉ!!」
カオリが叫ぶ。
「今だ、ハルト! 叩け!!」
神が、初めて後退する。
『PURE……LIGHT……
IMPOSSIBLE……』
ハルトは黄金の剣を構え、踏み込んだ。
「俺は――
黄金の太陽帝国の皇帝だ!!」
「生きている限り、
誰にも、俺の家族は触らせない!!」
剣が神の腕を叩き斬る。
KRRRAAAAACK!!
闇の腕が、ガラスのように砕け散った。
カオリが続く。
「――月影斬・第三式!!」
マグノリア:
「火山鎖ァァァ!!」
ダイヤモンド・ジャイアント:
『――圧壊の咆哮!!』
神の姿が煙のように歪み、押し戻される。
だが――消えない。
ベッドから、アウレリアが叫んだ。
「ハルト、油断しないで!
あれは、別の上位神と繋がっている!」
「――“本体”じゃない!!」
ハルトは歯を食いしばる。
「……つまり」
カオリ:
「これは……試しね」
マグノリアが弾を装填する。
「何のだ?」
神の声が、消えゆく中で響いた。
『TAME……
MIRU……
OMAE……
FUSAWASHI……
NASCIDO……』
そして、完全に消滅した。
沈黙が落ちた。
カオリは荒く息をつき、
マグノリアはアドレナリンに濡れ、
アウレリアは震えていた。
ハルトはすぐに彼女のもとへ駆け寄る。
「大丈夫か?
子どもは……無事か?」
アウレリアは、彼の手を強く握った。
「ええ……大丈夫。
でも……ハルト……」
その声が、かすかに揺れた。
「これは……
赤ん坊を殺すための攻撃じゃない」
ハルトは黙って聞いていた。
「これは警告よ。
より高位の神が……あなたを“評価”している」
ハルトの瞳が、鋭く光る。
「なら……
よく見ていればいい」
アウレリアは、彼を強く抱きしめた。
「お願い……約束して」
「一人で戦わないで」
「今度は……絶対に」
ハルトは、世界で一番壊れやすいものを抱くように、彼女を抱き返した。
「……約束する」
マグノリアが、にやりと笑う。
カオリは深く息を吐いた。
「ハルト……
これは、始まりにすぎないわ」
――その頃、宮殿の外。
一つの影が、塔の上からすべてを見下ろしていた。
「第一の試練は終了だ……
黄金の太陽の王よ」




