神々を喰らう太陽
重神が完全に降臨した瞬間、
海面は数百メートルもの水の壁となって立ち上がった。
現れたのは六柱。
宇宙の巨像・オリオンソス。
生きた重力の母・ミリディア。
絶対審判の主・ヘクター。
魂を喰らう者・ヴァーニクス。
永遠の門の守護者・ソルミル。
鏡の神・ネルブ。
その巨体は山にも等しく、
彼らの影だけで群島全体が闇に沈んだ。
反逆の王子テロンは、恐怖に膝をついた。
「……あ、ありえない……
伝説の英雄でさえ……
あれは下級神なんかじゃない……
あれは——」
ハルトが静かに答えた。
「この世界における、本物の最高神たちだ。」
ヴァーニクスが山を砕く声で告げる。
「アイザワ・ハルト……
我らを挑発したな。
ならば——
お前を時間ごと消し去る。」
仲間たちは、彼らの前では蟻のように小さかった。
それでも、誰一人として退かなかった。
ミリディアが手を伸ばした瞬間、
見えない力が島全体を押し潰す。
セレスは悲鳴を上げ、膝をつく。
ダリアはハンマーを地面に突き刺して耐えた。
ダビデの太陽結界には、ひびが走る。
「う……動けない……!」
ミリディアが囁いた。
「我が重みを受ける者……
それは死を受け入れるということ。」
ヘクターが神の天秤を掲げる。
その針先は、フロストベイン姉妹を指した。
「汝らの存在を量った。
判決——有罪。」
巨大な光の大鎌が振り下ろされる。
オリオンソスは、燃え盛る彗星を吐き出した。
ハルトは腕でそれを受け止め——
……数百メートル吹き飛ばされ、島を二つに裂いた。
カオリがそれを感じ取る。
「ハルト……!
お願い、立って……!」
太陽帝国にいるアウレリアは、魂が震えるのを感じていた。
瓦礫の中から、ハルトは立ち上がる。
血を流しながらも、倒れない。
「……俺の妻たちを……
仲間を……
俺の召喚たちを……
消すつもりか。」
拳を握り締める。
「一歩も退かない。」
その前に、ガチャサークルが現れた。
それは——
金でも、赤でもない。
純白の光。
神のルーンが刻まれた円。
世界が震える。
ハルトの頭に、声が響いた。
《条件達成:
六柱の最高神に対し、一歩も退かず挑戦》
《報酬:
神級アーティファクト——原初の太陽》
ハルトは息を呑んだ。
「……こんなに早く解放されるとはな。」
手を伸ばす。
小さく脈打つ太陽のオーブが現れ——
爆発した。
光の装甲となり、
浮遊する太陽の翼がハルトを包む。
その瞳は、黄金に輝いていた。
神々が後ずさる。
オリオンソスが叫ぶ。
「そ、それは……
最初の太陽の力だ……!」
ヘクター。
「許されぬ!
人間が持つべき力ではない!」
ハルトは一歩踏み出す。
足元の海が蒸発した。
「もう遅い。
俺は、手に入れた。」
音速を超え——
さらに未知の壁を破り、空へ。
最初に殴りつけたのは、ヘクター。
太陽の拳が、神の胴体を貫く。
「ぎゃああああ——
ありえな——!!」
ヘクターは星屑となって消えた。
ミリディアが惑星規模の重力で押し潰す。
ハルトは手を掲げる。
「太陽の釣り合い。」
重力は、空気のように消え去った。
フロストベインが叫ぶ。
「最高神の重力を……
無効化した……!?」
光の槍が走り、
ミリディアは真っ二つに裂ける。
オリオンソスは崩壊した宇宙を投げつける。
ハルトは殴り返した。
星座となって爆散する神。
ヴァーニクスが魂を喰らう口を開く。
ハルトはその中へ飛び込み——
背中から突き抜けた。
神は倒れた。
ソルミルが永遠の門を開こうとする。
ハルトは拳で閉じ、
神を両断した。
最後に残ったネルブが、震えながら後退る。
「そ、そんな……
我らは……
誰にも倒せぬはず……!」
ハルトは静かに見下ろす。
「俺は——
誰でもない。」
原初の太陽を、その胸に突き立てた。
最後の神が、崩れ落ちた。
空は、完全に解き放たれた。
島々は傷ついていたが、生きていた。
仲間たちは限界まで疲弊しながらも、微笑んでいた。
ハルトは膝をついた。
船から駆け寄ってきたカオリが、勢いよく彼を抱きしめる。
「ハルト……!
やったのね……!
神々に……勝ったのよ……!」
彼は強く、彼女を抱き返した。
「……ああ。
でも――
これで終わりじゃない。」
仲間たちは、その言葉の意味がわからず、彼を見つめた。
ハルトは、静かに地平線を見据える。
「至高神たちは……
ただの“門番”にすぎない。」
カオリは目を見開いた。
「……じゃあ……?」
ハルトは歯を食いしばり、低く告げた。
「本当の敵は……
これから来る。」




