「人が天に挑む時」
島は、神々の一撃ごとに震えていた。
テリオンは咆哮し、太陽の炎を解き放つ。
ニクサラは黒き夢を流し込み、現実そのものを侵食する。
ヴォルトラックスは雷を落とし、大地を引き裂いた。
仲間たちは、追い詰められていた。
――その時。
少年は、もはや少年ではなかった。
その瞳は、純金のように輝いていた。
「ネフェルカーラ……今だ」
エジプトの戦士は微笑み、盾を掲げる。
「太陽変身・第二段階!
ホルスの覚醒!」
光の羽根がダビドを包み込む。
彼の竪琴は光の欠片となって砕け、
再構築され――
エジプトの神性エネルギーで編まれた弦を持つ、神弓へと変わった。
ダビドは一歩、前へ出る。
それは、若き神を見ているかのようだった。
「テリオン!
これが、俺の挑戦だ!」
放たれた矢は永遠の炎を貫き、獅子神の胸を直撃する。
テリオンは後退した。
「ば、馬鹿な……!
人間ごときが――!」
ダビドは、二本目の矢をつがえる。
「俺は、ただの人間じゃない。
太陽の召喚士の弟子だ」
二人の姉妹は、互いに視線を交わした。
フロストレーンは双剣を回し、
姉は印を結ぶ。
「姉さん……
痛いかもしれない」
「構わない。やろう」
青白い光が二人を包み込み、
その身体は一つへと融合する。
氷晶の鎧を纏い、柱ほどの槍を持つ、
高き氷の戦姫。
ニクサラは、生まれて初めて恐怖を覚えた。
「な……何者……?」
三重に重なった声が、空間を震わせる。
「私たちはフロストベイン。
そして――
これが、私たちの“限界解除”」
雪の軌跡を残し、
彼女は一瞬で跳躍し、黒き夢を貫いた。
セレスは深く息を吸う。
彼女のヴァイオリンは、赤、桃、金に輝く。
「最終楽章……
《カーミン・コンチェルト》!」
音符は爆発する弾丸となり、ヴォルトラックスを撃ち抜く。
雷の巨神は、音楽そのものに追い詰められていく。
「こ、これは……音楽ではない!
純粋な破壊だ!」
セレスは微笑んだ。
「褒め言葉として受け取るわ」
――その頃、工房では。
アルファ・コアが、眩い破片となって爆発した。
ゴーレムが姿を現す。
八メートル級の巨体。
フラクタルの翼。
胸には、赤く脈打つ核。
ハルトは拳を握りしめる。
「いい。待っていた」
ゴーレムは、アカシの声で告げた。
《神性試作体 起動》
《目標:アイザワ・ハルト 排除》
ハルトは一歩踏み出し、地面を砕く。
「背後から刺そうとした。
俺の妻たちを利用しようとした。
俺の召喚獣に呪いをかけた」
右手を掲げる。
黄金のガチャ陣が出現した。
「存在を、消す時間だ」
ゴーレムは隕石級の赤い球体をチャージする。
ハルトは笑った。
「ガチャ――
三ツ星解放。
《破壊神の翼》」
黄金の光剣が、彼の手に現れる。
衝突は工房全体を揺るがし、
海上結界をも破壊した。
ハルトは赤い球体を、真っ二つに切り裂く。
ゴーレムは、初めて震えた。
《異常検知》
《ハルト……脅威レベル更新:神性》
ハルトの姿が消える。
――次の瞬間。
ゴーレムの目前に現れ、その核を貫いた。
「これは……アヤネの分だ」
――――BOOOOOOM。
神性アルファ・ゴーレムは、炎に包まれ、崩れ落ちた。
ダビデの一矢が、テリオンの心臓を貫いた。
フロストベインが、ニクサラを貫通した。
セレスが、ヴォルトラックスの核を破壊した。
三柱の神は、
まるで死にゆく星のように爆散した。
島は静寂に包まれた。
誰もが、荒い息をついていた。
――その時。
空が、完全に暗転した。
成層圏の彼方から、
世界そのものを震わせる声が響いた。
「―――人間どもよ……
禁忌の火遊びをしていることを、理解しているか」
リラは、震える視線で空を見上げた。
「な……なに、あれ……?」
雲が裂ける。
数百メートル級の巨大な影が、次々と姿を現した。
重神。
天を統べる、真なる支配者たち。
その一柱一柱が、山と同等の大きさを持っていた。
太陽帝国にいたアウレリアは、
その気配を感じ取った瞬間、全身を震わせた。
ハルトは空を見上げる。
胸の傷は、すでにほとんど塞がっていた。
「……やっと出てきたか」
神の一柱が、雷鳴のような声で告げる。
「貴様は――
我らの子を殺した」
ハルトは、静かに笑った。
「じゃあ……
祈り始めろ」




