「神の憤怒と、城壁の子ら」
世界が、震えていた。
重力の神にして、
古き城壁を護る存在――
テロスが、完全な姿で戦場に降臨したのだ。
ハルト、ダビデ、ネフェルカラ。
彼らは、
二十メートルを超える巨神の前に立つ
たった三つの影にすぎなかった。
海は咆哮し、
船は傾き、
兵士たちは後退する。
だが――
ダビデは深く息を吸った。
「ハルト……
俺を信じて」
ハルトは、迷いなくうなずく。
ネフェルカラは、
不死の戦士らしい確信に満ちた笑みを浮かべた。
テロスが、
掌を掲げる。
空が、
まるで喰われたかのように暗転した。
「――星淵」
ハルトの頭上に、
純粋な重力の黒球が出現し、
彼を押し潰そうとする。
ダビデは竪琴の弦を掻き鳴らした。
「天秤の旋律――第二共鳴」
音の波動が、
純重力と衝突する。
空気が圧縮され、
大地が唸った。
だが――
今回は、足りなかった。
ハルトが踏み込む。
その手が、
黄金に輝いた。
「ガチャスキル:
《ルーンドーム・コア――部分解放》」
小さな太陽のような
黄金の核が、
彼の背後に顕現する。
力が、
真正面から激突した。
島全体が、
悲鳴を上げる。
黒球は、
水晶のように砕け散った。
テロスが、
わずかに身を乗り出す。
「……興味深い」
ネフェルカラが駆ける。
掲げられたコペシュ。
「アヌビスの舞――
魂のオアシス断ち」
湾曲した刃が、
神の足首を掠め――
赤い線が走った。
――神が、
血を流した。
兵士たちは、
凍りついた。
ハルトは、笑う。
「テロス」
「この戦場で
神性を持つのは――
お前だけじゃない」
テロスが手を開くと、
海が応えた。
巨大な水柱が立ち上がり、
三人を叩き潰そうとする。
ダビデは、
より深く、
より重く、
成熟した旋律を奏でる。
「砂と光の交響曲」
水柱は、
百年分の時を一気に背負ったかのように
崩れ去った。
ハルトが跳ぶ。
一直線に、
神の顔へ。
「終わらせる!」
テロスは、
巨大な指を伸ばす。
「不可能だ」
――その瞬間。
主戦場が空気を引き裂く中、
城壁同盟の他の島々でも
戦火が上がっていた。
◆ ケリオン島
リリー・フロストベイン
vs
第三王子アルカディオス
リリーは穏やかに微笑み、
手話だけで語る。
姉のフロストレインが訳した。
「――遅い、って言ってる」
アルカディオスは咆哮し、
獅子の鱗を持つ神装鎧を召喚。
氷と炎の激突が、
島を揺らした。
◆ ミレル島
レディ・ミラ・ミラージュ
vs
第一王女タリア
タリアは神槍を振るい、
水の幻影を無数に生み出す。
「降伏なさい」
「これほど美しい相手を
傷つけたくはないわ」
ミラは、ため息をついた。
「残念」
「私、既婚者なの」
――次の瞬間、
爆裂する操り人形で
城壁に叩きつけた。
◆ ピドレオン島
狙撃手セレス
vs
第八・第九王子(双子)
セレスの一射一射が、
地面を粉砕する。
双子は舞うように回避し、
蜃気楼を生み出す。
「セレス」
魔導銃が囁いた。
「……楽しくなりそうだ」
◆ エストラティア島
幼き騎士
vs
最凶王子クリソン
ダリアは小さく跳ね、
巨大なハンマーを構える。
「――つぶす!」
その一言で、
クリソンは初めて後退した。
王の子らは、
一人、また一人と
押し返されていく。
――それこそが、
本当の恐怖だった。
子らが倒れれば、
残るのは二つ。
王妃。
そして、
城壁の王。
彼らはまだ、
切り札を隠している。
テロスが地を踏み砕く。
ハルトは、
膝をついた。
「強いな、人の子よ」
「だが――
信仰が足りぬ」
ハルトは、
黄金の瞳で見上げる。
「信仰より、
いいものがある」
「――忠誠だ」
ダビデの旋律が、
空を引き裂く。
ネフェルカラが、
重力の鎖を断つ。
ハルトの拳に、
黄金が集束する。
「ガチャスキル:
《太陽の欠片――星撃》!」
BOOOOOOM!!
拳が、
神の兜を叩いた。
テロスがよろめく。
世界が、
揺れ動く。
――初めて。
神は、
二歩、退いた。
ダビデが叫ぶ。
「ハルト! 今だ!!」
ネフェルカラが、
コペシュを掲げる。
太陽が、
黄金の刃に反射する。
ハルトは、
意志を一点に集めた。
「テロス……
ここは、もう俺の世界だ!!」
そして――
神の胸元へ、
真っ直ぐ突撃した。
テロスは――
倒れるのか。
それとも――
真の姿を現すのか。
城壁の子らは、
一人ずつ、打ち倒されていくのか。
そして――
王は、
第二の神を解き放つのか。




