光と影、氷と激突
ゴーレムの残骸が燻る砂浜に、
突如として――
凍てつく風が走った。
リラ・フロストベインとフロストレインは、
呼吸を合わせたかのように並び進む。
その背後には、
言葉を持たぬ妹――セナ。
素早く手話で合図を送る。
リラはそれを読み取り、微笑んだ。
「二人来るって。
しかも……ただ者じゃないってさ」
フロストレインは、
氷槍を構えながらうなずく。
「分かる。
私も感じてる」
「二つの嵐が――ぶつかり合う感じ」
前方に、光が降り注ぐ。
反対側に、影が落ちた。
兵士たちは、思わず後退する。
――エリンドロスの二人の王子が、
ついに島の北部戦域へと姿を現した。
青金色の輝柱に包まれ、
一歩進むごとに星座の残光を刻む男。
「なるほど……
君たちが“黄金の太陽”の
氷の姉妹か」
落ち着いた声が響く。
「その狙撃と制御は、
並外れていると聞いている」
リラがウインクする。
「褒め言葉?
珍しいね。
あんた、優しいタイプには見えないけど」
アステリオンは、礼儀正しく微笑んだ。
「敵を侮らない主義でね」
「――自分が上回れると分かっている時でさえも」
リラはライフルを下ろした。
「……ああ」
「それ、
完全に“丁寧な侮辱”だね」
――次の瞬間。
闇が、砂浜に流れ落ちる。
まるで、
黒いインクが零れたかのように。
現れた途端、
その男は欠伸をした。
「退屈そうだな」
セナが眉をひそめ、
はっきりとした手話を叩きつける。
――「来なさい。できるなら」
ノクサンダーは、片眉を上げた。
「……口の利けない子に
煽られるとは」
「面白い」
フロストレインが一歩前に出る。
地面が、
瞬時に凍りついた。
「侮辱じゃない」
「“来い”って言っただけ」
「――顔を砕くためにね」
ノクサンダーは、低く笑う。
「はは……」
「いいね。
君たち、気に入った」
空気が凍り、
地面が震える。
四人の戦士が、
互いを真正面から睨み合った。
アステリオンが槍を掲げ、
天を指す。
「誤解のないように言っておくが――」
「これは、最終決戦ではない」
リラは魔導ライフルを構える。
「完璧」
「私たちも、
まだ本気は出してないから」
ノクサンダーが指を鳴らす。
闇の蛇が、
彼の周囲に蠢き始める。
「ついて来られるか、
試してやる」
フロストレインは、
氷槍を握りしめ、
危険な笑みを浮かべた。
「……やっと、体が温まってきた」
リラが引き金を引く。
PAM—PAM—PAM—PAM
強化氷弾が、
アステリオンの心臓を狙う。
だが――
彼は静かに槍を回した。
刃に刻まれた星座が輝き、
星光の盾を形成する。
PING—PING—PING—PING
弾丸は、
雨粒のように弾かれた。
アステリオンが一歩前に出る。
「見事な狙いだ」
リラは前髪を吹き払う。
「でしょ?」
「でもその盾、
正直――ウザい」
アステリオンは、
槍を大きく弧を描くように振る。
圧縮された光が、
一直線に放たれた。
リラが後方へ跳ぶ。
「リラ!!」
フロストレインの叫び。
光弾は頬を掠め、
背後で爆ぜた。
――その時。
ノクサンダーが消えた。
転移ではない。
影になったのだ。
次の瞬間、
フロストレインの背後に現れる。
「やあ」
彼女は振り向きもせず、
氷槍を回転させた。
CLANG
ノクサンダーは笑いながら後退する。
「速い」
「いい反応だ」
フロストレインは、
爆発的な氷波で応じた。
FWOOSH—CRACK
凍結衝撃が、
戦場の半分を覆う。
だが――
ノクサンダーは、
影に包まれたまま歩み出る。
氷は、
彼の周囲で溶け落ちていった。
「それで、
少し目が覚めた」
セナが駆け出す。
自ら生成した氷刃で、
切り裂きにかかる。
ノクサンダーが手を振る。
影が蛇のように立ち上がり、
攻撃を受け止めた。
言葉はなくとも――
その表情が叫んでいた。
「侮るな」
ノクサンダーは、
心底楽しそうに笑う。
「……この子、
最高だな」
リラが、
青き氷弾を放った。
アステリオンは、
光の刺突で応じる。
二つの力が、
戦場の中央で激突する。
¡¡BOOOOOOM!!
光と氷が混じり合った爆発が起こり、
白と金の嵐が巻き上がった。
その雲の中へ――
フロストレインとセナが跳び込む。
ノクサンダーとアステリオンも、
神業の精度で迎え撃った。
――それは、
死を踊るための舞踏。
だが、
誰一人として――
まだ、全力ではない。
やがてアステリオンが後退し、
槍を掲げた。
「見事な技だ」
「だが……
まだ、君たちが死ぬ時ではない」
ノクサンダーが、
嘲るように付け加える。
「それに――」
「そんなに早く、
服を台無しにしたくないしな」
リラは血を吐きながら、
笑った。
「……あんたたちも」
「本気じゃないでしょ」
フロストレインは、
槍を一回転させる。
「次は……」
「全部出す」
「――生き残るかどうか、ね」
アステリオンは、
静かにうなずいた。
「分かっている」
「その時は――
俺も、覚悟を決めよう」
ノクサンダーは、
セナを見つめた。
彼女は、
一切の怯えもなく、
真正面から睨み返す。
「……この無口な子、
気に入った」
「すぐに死なないでほしいな」
セナは、
無言で――
中指を立てた。
リラとフロストレインが、
同時に笑う。
つづく




