『皇帝の炎と、戦前の抱擁』
大広間には、張り詰めた力が満ちていた。
カオリ、マルガリータ、アウレリア、フロストレーン、ミラージュ、モモチ、セレス、リラ、リリーベイン、リース――
そしてハルト配下のすべての指揮官たちが、それぞれの席に着いている。
中央には、
ハルトが静かに立っていた。
その表情は、揺るぎない。
「聞いてくれ」
彼は語り始めた。
「レアンドロスは、我々に対し聖戦を宣言した」
「彼一人ではない。
十二の従属王。
十二の軍勢。
そして――神に選ばれし王」
室内の灯りが、
緊張に呼応するかのように微かに震えた。
カオリが腕を組む。
「なら、選択肢は二つね。
向こうが来るのを待つか……
こちらから動くか」
フロストレーンが、口角を上げた。
「答えは分かってるわ、ハルト」
彼は、静かに頷く。
「先に打つ。
だが、殲滅のためじゃない」
「盤面を制するためだ」
「レアンドロスの諸王国が完全に結束すれば、
戦争は十倍厄介になる」
リースが、魔導ホログラムを展開する。
「初動目標――
外洋諸島」
「補給線だ。
ここを断てば、
神性軍の行動範囲は大きく制限される」
ミラージュが手を挙げる。
「アルゴシア方面は士気が崩れている。
南方から圧をかけられるわ」
アウレリアは、
腹部に手を添えたまま、穏やかに口を開く。
「士気も、戦術も、
私たちが有利……」
「でも、レアンドロスは神性を得た。
それが、すべてを変える」
ハルトは、深く息を吸った。
「……分かっている」
沈黙。
ハルトは、全員を見渡した。
「だからこそ――
最初の攻撃は、俺が率いる」
「これは、委ねられる戦争じゃない」
「未来を決める戦いだ」
黄金の瞳が、強く輝く。
「――全員、
俺について来てほしい」
全員が、同時に頭を下げた。
カオリは誇らしげに微笑み、
マルガリータは危うい笑みで帽子を掲げる。
アウレリアは、
そっとハルトの手に自分の手を重ねた。
ミラージュは一礼し、
モモチは影の中へ溶けるように姿を消す。
リラは弓を引き締め、
フロストレーンは魔導バイザーを調整した。
ハルトは手を上げる。
「明日、進軍を開始する。
――準備を」
月明かりが、
皇帝の塔を照らしていた。
ハルトは、私室へと入る。
中では、
アウレリアが静かに待っていた。
その肌は、宿る命の影響か、
柔らかな金色を帯びている。
カオリはベッドの端に腰掛け、
穏やかな笑みを浮かべていた。
マルガリータは、
黒いドレスと帽子姿で壁にもたれ、
腕を組んでいる。
「ハルト……」
カオリが優しく問いかける。
「……大丈夫?」
扉を閉め、
ハルトはゆっくり息を吐いた。
「……厳しい日々になる」
「君たちに、
これ以上の重荷を背負わせたくない」
アウレリアが、
静かに近づき、彼の手を取る。
「私たちは、あなたの妻よ」
「傍観者でいるつもりはない。
あなたの“力”でいたい」
マルガリータが、
艶やかな笑みを浮かべる。
「それに……
明日からは、神々の戦争」
「今夜は――
私たちの男でいて」
カオリが、後ろから彼を抱きしめた。
「あなたは、ひとりじゃない」
ハルトは、
胸にのしかかっていた重圧が、
わずかに和らぐのを感じた。
「……ありがとう。
本当に」
アウレリアが、
まず優しく口づける。
次に、
カオリが想いを込めて。
最後に、
マルガリータが、
戯れるような熱を添えて。
三人の温もりが、
彼を包み込む。
アウレリアが、囁く。
「今夜は……
あなたの心を、私たちに預けて」
カオリが、
頬にそっと触れる。
「だって明日――
あなたは、
世界を導く“太陽”になる」
マルガリータが、
いたずらっぽく付け加えた。
「そして……
遠征の間、思い出せるようにね。
我らが皇帝」
夜は、
口づけと囁きに包まれた。
黄金太陽の皇帝は、
自らの力を分け与え――
そして、
彼女たちの力を受け取った。
ハルトは、
朝早く目を覚ました。
その瞳には、
新たな光が宿っている。
背後では、
彼の妻たちが静かに眠っていた。
疲れ切りながらも、
どこか満ち足りた表情で。
ハルトは、
彼女たちを見つめ、
柔らかな眼差しを向ける。
「……君たちのために」
「そして――
俺たちの未来のために」
「――負けるわけにはいかない」
黄金のマントを羽織り、
彼は立ち上がった。
バルコニーへと歩み出る。
その下には――
黄金太陽の軍勢が、
果てしなく広がっていた。
数千の兵。
竜。
魔導兵器。
そして、揺るぎない覚悟。
新しい一日が、始まる。
――神々の戦争が、
最初の一歩を踏み出した。
―つづく―
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