『黄金の告白――戦火の中で始まる新しい命』
戦いの後に訪れた静寂は、
あまりにも現実味がなかった。
崩壊した玉座の間には、
粉塵、溶けかけた氷、
そして――消滅した神剣の残響だけが漂っている。
ミラ、リリー、フロストレーンは、
極限まで消耗していながらも、立っていた。
アウレリアは、
砕け散ったニクテマールの残骸を見つめ、
荒い息を整えている。
――その時。
――――ドォォォン!!
破壊された扉が、さらに弾け飛んだ。
そこへ現れたのは、
相澤ハルト。
カオリ、マルガリータ、
そして精鋭兵たちを従えての到着だった。
彼の放つオーラはあまりに強く、
床の亀裂に残っていた火種が、再び赤く灯るほどだった。
ハルトの視線が、
一瞬で状況を把握する。
砕けた神剣。
倒れ伏す王子。
傷を負った仲間たち。
ゼフィロンにもたれながら立つアウレリア。
ハルトは、短く目を閉じた。
――安堵。
「……ありがとう。
みんな、本当によくやってくれた」
ミラが、息を吐く。
「ちょうど、終わったところよ」
フロストレーンが頷く。
「神剣は破壊した。
王子は生存しているが、完全に制圧済みだ」
リリーが、瓦礫の中に倒れるセロンを指さす。
ハルトは歩み寄った。
「――黄金太陽王国の名において。
この俺、相澤ハルトが宣言する」
彼は、王子の両腕に
生命力と直結した魔力拘束具を装着する。
解除できるのは、彼自身のみ。
「セロン。
お前を、捕虜とする」
◆ 思いがけない眩暈
アウレリアは、状況報告のため
ハルトへ歩み寄ろうとした。
だが――
途中で、足が止まる。
「……ハルト……わたし……」
顔色が、急激に失われた。
次の瞬間。
「――うっ……!」
アウレリアは膝をつき、
ひび割れた大理石の床に吐き出した。
ミラが、跳ねるように駆け寄る。
「アウレリア!?
怪我!?
剣の影響を受けたの!?」
リリーも支えに入る。
アウレリアは、肩で息をし、
全身を震わせていた。
ハルトはすぐに膝をつき、
両手で彼女の顔を包む。
「アウレリア、俺を見ろ。
どこが痛む?」
彼女は、ゆっくりと首を振る。
「……ち、違う……
魔力でもない……
ただ……わたし……」
声が、震えた。
ミラが、目を見開く。
リリーも同時に息を呑む。
カオリが、口元に手を当てた。
――誰よりも早く、察していた。
アウレリアは、
ハルトの手を、強く握る。
恐怖。
戸惑い。
そして、かすかな希望。
すべてが混じった瞳で、
彼女は囁いた。
「……ハルト。
わたし……妊娠してる」
世界が、止まった。
壁の穴から吹き込む風の音だけが、
静寂を裂く。
ハルトは、言葉を失う。
「……妊娠……?
……俺の、子……?」
アウレリアは、涙を浮かべて頷いた。
「……ええ。
数日前に分かったの……
でも、戦争の最中で……言えなかった」
ハルトの心臓が、激しく脈打つ。
彼は彼女を引き寄せ、
強く抱きしめ――
兵士たちの前だろうと構わず、
深く、口づけた。
フロストレーンと妹は、
気まずそうに視線を逸らしながらも、微笑む。
リリーは、口角を上げた。
カオリは、静かに拍手を送り。
マルガリータは、幸せそうに息をつく。
ハルトは、額を重ねる。
「……ありがとう。
こんな狂気の中で……
それでも、俺に与えてくれて」
アウレリアは、涙越しに笑った。
「……約束して。
この戦争が終わったら……
少しでいいから、平穏を」
ハルトは、彼女の頬を撫でる。
「誓う。
――お前と……
俺たちの子に」
一人の兵士が、駆け込んできた。
「――陛下!!
南部港湾にて、
偵察部隊が大規模な軍事行動を確認しました!」
ミラは、険しい表情で眉をひそめる。
「……レアンドロス。
もう、侵攻の準備を始めたのね」
ハルトはアウレリアを見つめ、
そっと腕に抱き上げた。
「ウィンドチェイサーへ運べ。
――今は、休ませる必要がある」
兵たちが即座に動き出す。
ハルトは、残された戦士たちへと視線を向けた。
「神剣は砕けた。
王子は捕らえた。
だが――」
その瞳が、
これまでとは異なる新たな力を宿して輝く。
「……この戦争は、
まだ始まったばかりだ」
―つづく―




