『ニクテマール覚醒――開かれし夜の盾』
玉座の間の壁が震えた。
剣から溢れ出す闇のエネルギーは、生き物のようにうねり始める。
リリーとミラは、反射的に後退した。
セロンは両手でニクテマールを掲げる。
「……これまで、手加減していただけだ。
だが、戦士として死にたいというのなら――
我が剣の真の姿を見て死ね!!」
青く輝いていた刃の光が歪み、徐々に闇へと染まっていく。
床に刻まれた古代ルーンが燃え上がった。
ミラが目を細める。
「……いやな予感。
もう“剣”じゃないわ。
――あれは、存在そのものよ」
◆ 神格覚醒:ニクテマール
――《オープン・フォーム》
セロンが叫ぶ。
「――ニクテマール!
目を開けろ!!」
次の瞬間、剣は闇の旋風となって爆発した。
外の空が、一気に暗転する。
リリーはライフルを構えたが、圧倒的な魔力の圧迫により、狙いを定めることすら困難だった。
――重く、深い声が響く。
それは、セロンの喉から発せられたものではない。
人の声ではなかった。
『……飢えている……
もっと……
光を寄越せ……
――喰らってやる……』
ミラが歯を食いしばる。
「……剣が……喋ってる?」
セロンは誇らしげに笑った。
「ニクテマールは、封印された神剣だ。
なぜだと思う?
――光と生命を喰らうからだ!!
そして今日、存分に食わせてやる!」
リリーが低く呟く。
「……ハルト、絶対に怒るわね。
これを生かしたままにしたら」
セロンが剣を床へと叩きつけた。
――ガァァァン!!
黒いルーンが壁、天井、床へと一斉に走る。
わずか一秒で、王宮中枢を覆う黒い球状結界が形成された。
外では、アウレリアと竜騎兵たちが、宮殿を包み込む黒いドームを目にしていた。
ベータが叫ぶ。
「司令官!
要塞が完全に封鎖されました!!」
アウレリアは拳を強く握る。
「くっ……!
ミラとリリーが、中に……」
ローザが結界を見つめ、素早く手信号を送る。
「……この魔力、生きてる。
普通じゃない」
アウレリアは頷いた。
「わかっている。
私の炎でも、破れないかもしれない」
ドラゴンのゼフィロンが怒りの咆哮を上げる。
アウレリアは部隊へと振り向いた。
「――天空の子らよ!
弱点を探せ!
この結界を破らねば、彼女たちは死ぬ!」
炎、氷、風――
竜たちのブレスが叩きつけられる。
だが、結界は微動だにしなかった。
まるで、ブラックホールを攻撃しているかのようだった。
――――
ミラは杖を握りしめる。
〈ミッドナイト〉の変身が、敵の力に呼応するように、さらに濃く輝いた。
リリーは前に立ち、ライフルを構える。
セロンが剣を振り上げた。
ニクテマールの影が、生きた鞭のように伸びる。
――ヒュンッ!!
リリーは転がるように後退し、間一髪で回避した。
影は石、柱、大理石を、まるでバターのように切り裂く。
ミラは十枚の幻影鏡を一斉に展開する。
「来なさい。
――私だって、遊べるわよ」
セロンの一閃で三つが砕ける。
影がさらに四つを破壊。
――だが、三つは残った。
次の瞬間、それらが爆ぜる。
――ドォォォン!!
衝撃に、セロンが後退した。
その隙を逃さず、リリーが胸部へ氷弾を三発撃ち込む。
――バン! バン! バン!
弾丸は剣に吸い込まれ、ニクテマールはさらに眩く輝いた。
セロンは笑う。
「感謝する……
この剣は、魔力を喰らう」
ミラが歯噛みする。
「……あー。
それは、かなり厄介ね」
リリーは顎を引き締めた。
「なら――
別の手を使うだけよ」
セロンは、常識を超えた速度で二人へと躍りかかった。
剣が振るわれるたび、純粋な夜の残光が空間に刻まれる。
衝突の一撃一撃が、玉座の間を震撼させた。
影は、まるで追加の武器のように蠢く。
――ヒュン! ヒュン! ヒュン!
柱が切断され、床が砕け、粉塵が舞い上がる。
ミラとリリーは、完璧な連携で応戦していた。
まるで、何年も共に戦ってきたかのように。
ミラは、切り裂く鏡で攻める。
リリーは、不可能な角度から射撃する。
二人は、闇の薙ぎ払いを紙一重でかわし続けた。
――だが。
その剣は――
あまりにも、異質だった。
リリーは荒い息を吐く。
「……あれ、
私たちの魔法能力を吸収してる……」
ミラは指を一本立てた。
「だったら――
プランBを使うしかないわね」
リリーは目を見開く。
「……本気?
ここで、あれを使うつもり?」
セロンは、勝利を確信した笑みを浮かべる。
「何を試そうと無駄だ。
この剣は、すべてを喰らう」
ミラは、危険な笑みを返した。
「――勘違いよ。
存在しないものは、喰べられない」
リリーは深く息を吸い込む。
「……この剣、
何があっても――折る」
――戦いの“音色”が、変わろうとしていた。
―つづく―




