「壊れた広間と《夜開の剣(ニクテマル)》」
竜とゴーレムの激突が島全体に響き渡る中――
海岸の宮殿内部では、もっと近く、もっと残酷な暴力が渦巻いていた。
◆ ◆ ◆
正面扉が、爆発的な一撃で吹き飛んだ。
BOOOOM
煙が晴れ、三つの影が姿を現す。
✦ ミラ・ミラージュ
輝く杖と危険な微笑み。
✦ リリィ・フロストベイン
冷たい眼差しのまま銃を構える狙撃手。
✦ ローザ・フロストベイン
無言のまま双刃を光らせる影の刺客。
衛兵たちは反応しようとした。
悪手だった。
ローザが最初に動いた。
空気が切れたかのような二閃。
衛兵の喉が、目に見えぬ刃で裂かれる。
同時にリリィが三発撃ち込む。
氷弾は兜を貫き、身体を壁へと縫い止めた。
ミラは杖を回し、舞うようにカードを投げつける。
切り裂かれた兵士は一人残らず床に倒れた。
――数秒で、広間には静寂しか残らなかった。
ただ一人を除いて。
◆ ◆ ◆
◆ 暗き夜をまとう王子 ― セロン
部屋の中心。
床そのものが“夜”に染まるように黒く沈む中、
セロン王子が一歩、前へ出た。
その手に握られているのは――
神器《夜開の剣》。
漆黒の刃。
だがその内側には、世界を喰らうような深い蒼が揺らめいている。
セロンは、傲慢と狂気が混ざった笑みを浮かべた。
—お前たち……まだ死んでいなかったのか。
ミラ・ミラージュはひらりと一歩前に出て、
軽蔑を隠そうともせずに優雅に言った。
—あら王子さま……
私を殺すには、安物の毒と無能の列だけでは足りませんわ。
ローザが静かに手話を送る。
「外に行く。アウレリアを助ける。」
リリィが肩に手を置く。
—行け、ローザ。ここは私とミラで十分。
ローザは一度だけ頷き、影のように跳び去る。
セロンは苛立ちをあらわにした。
—妹一人を逃がして……
この俺を、たった二人で相手にするつもりか?
神器を手にした俺を?
愚か者め。
リリィは無表情のまま、銃口を向けた。
—勘違いするな。
全力を使う価値がないだけだ。
ミラが軽く拍手する。
—まあ、リリィは脅し方まで可愛いのね。
セロンが剣を握り締めると、
広間の光がすべて吸い込まれ――
暗黒が満ちていく。
◆ ◆ ◆
◆ ミラ・ミラージュ ― 幻影の女王へ変貌
ミラは足を半歩後ろへ滑らせ、
杖を高く掲げた。
瞬間、十数枚の鏡が割れるように光が散り――
彼女の姿が幻想に包まれる。
—幻装
黒と銀のドレスが形を変え、
髪は重力を失い、
瞳は深淵の鏡へと変わる。
リリィが短く息を飲む。
—……何度見ても怖いんだよ、それ。
ミラはウインクした。
—怖さは美しさよ。
セロンが叫ぶ。
—もう遊びは終わりだああッ!!
《夜開の剣》が蒼黒の輝きを放つ。
王子の影が獣のように伸び、刃と同じく殺意を持って動く。
ミラは退屈そうに杖を掲げ。
リリィは冷静に狙いを定める。
セロンが最初の一歩を踏み出した。
ミラは微笑む。
—では……踊りましょうか。
王子セロンは、
常識を超えた速度で踏み込んだ。
黒い刃が空気を裂き、
夜の炎のような青い軌跡を残す。
フィュン! フィュン!
ミラは即座に幻影を展開した。
十人のミラが広間に現れる。
セロンは叫ぶ。
—幻術など、俺は止められん!!
一体斬り裂く。
また一体。
さらに一体。
斬られた幻影は銀の煙となって消えた。
しかし――
その背後に、すでにリリィがいた。
パァン!
氷弾が放たれる。
セロンは剣を反転させ、一閃で弾を切り裂いた。
だが氷弾は割れた瞬間に爆ぜた。
巨大な氷柱となってセロンを包み込もうとする。
ミラは氷柱を足場にし、
舞うように跳び上がり、
二十枚のカードを一斉投擲した。
セロンは闇そのもののように剣を回転させる。
パパパパパッ!!
カードはことごとく弾かれた。
黒と白の火花が空気を裂く。
リリィは氷の匂いを肺に吸い込みながら言った。
—この剣……魔法を斬る。
ミラは不敵に微笑む。
—なら、魔法を使わなければいいだけよ。
◆ ◆ ◆
セロンは暴風のように襲いかかる。
刃が唸り、影が広がり、床が裂ける。
ミラは舞踏家のような優雅さでかわし、
リリィは跳び、転がり、滑り込みながら精密に射撃する。
そして王子は――
笑っていた。
—これだ! 神器にふさわしい戦いだ!!
リリィが後退する。
ミラがその横に滑り込む。
完璧な呼吸。
流れるような連携。
セロンは二人に剣先を向ける。
—さぁ……死ね!
《夜開の剣》がうなり声をあげ、
青いオーラが獣のように膨れ上がる。
ミラはゆっくりと笑った。
—あら王子……
私、ずっとこの瞬間を待っていたの。
リリィは照準を合わせ、
銃口が冷たく光る。
――この先は、
さらに残酷で、さらに美しい領域へと踏み込む。
—続く—




