「皇子の神器と竜翼の咆哮」
プリンス・セロンは、海沿いの離宮へ息を切らして駆け込んだ。
扉が金属音を響かせて閉まる。
後ろから従者が震えながらついてくる。
—あ、あの…殿下……。
太陽帝国の参謀たちは逃げてしまいました。ど、どうなさいますか……
—黙れ!
セロンは屈辱と怒りで顔を歪めた。
—あの太陽の魔女どもに殺されてたまるか!
彼は部屋中央の古い祭壇へ向かった。
そこには赤い布と封印のルーンに包まれた一本の剣が置かれている。
従者の顔から血の気が引いた。
—せ、殿下……それを使うおつもりですか……?
陛下は「全面戦争の時だけ解放せよ」と……
—もう戦争だろうが!
セロンは布を勢いよく引き裂いた。
部屋が震える。
青黒い光が、まるで呻き声のように歪んで溢れ出す。
神器――
“開かれた夜の刃”。
あらゆる魔法を断ち切る禁断の剣。
力が強すぎるため、長い間封印されてきた。
従者は後ずさった。
—で、殿下……その剣は“持ち主の魂を喰う”と……
セロンは狂気と誇りの混ざった笑みを浮かべた。
—なら喰わせてやるさ。
あの女どもを斬り捨て、
アルゴシアがハルト・アイザワに跪かぬことを証明してみせる!
◆ 空が裂ける──竜翼部隊、到来
その瞬間、宮殿の外で空の色が変わった。
黄金の雷鳴。
大気を割るような咆哮。
雲が破れた。
アウレリアが青き巨竜ゼフィロンの背に乗り、
二十騎以上の竜と竜騎兵を従えて降下してくる。
アルゴシア兵達は凍りついた。
—む、無理だ……竜だ……竜の軍勢だ……!
アウレリアは手を掲げ、空を震わせる声で命じた。
—天空の后! 防衛陣形に移行!
ベータ、東側の制圧は任せる!
赤の装甲を纏う副指揮官ベータが槍を掲げる。
—応ッ! 深紅分隊、翼陣──展開!
竜たちは急降下し、
巨大な突風を巻き起こしながら敵兵を吹き飛ばす。
その時――
大地が揺れた。
BOOOOM!!
森の奥から、十体以上の巨人ゴーレムが姿を現した。
腕が巨大な投石器になっている攻城型だ。
その中の一体が馬ほどの大きさの岩を構え――
アウレリアに向かって投げた。
—アウレリア様、危ない!!
ゼフィロンが翼をひねり、寸前で回避。
岩は背後の山を砕いた。
ベータが舌打ちする。
—くそっ! 攻城ゴーレムだ!
これはアカシの仕業だな!
アウレリアは歯を噛みしめ、目を細める。
—何を投げようが関係ない……
太陽を止められるものか。
彼女はハルトから授かった竜槍を掲げた。
ゼフィロンの喉奥に青い光が集まる。
—竜息砲・天衝閃光!!
蒼光の爆流が放たれ、
二体のゴーレムを一瞬で蒸発させる。
アルゴシア兵達は恐怖で後退した。
竜翼部隊は一斉に陣形を整え直した。
アウレリアが咆哮するように叫ぶ。
—生存者を探せ!
リリィ、ローザ、そしてミラはこの島にいる!
王の参謀を一人たりとも死なせはしない!
竜たちが応えるように天へ轟音を上げた。
副指揮官ベータが砦の方向を指差す。
—司令官!
島の中心で、巨大な力が解放されています!
こ、これは……神性反応……!?
アウレリアの背筋に冷たいものが走る。
—神性……?
そんなはず……
◆ ◆ ◆
その頃、島中央の塔。
セロンは神器を高く掲げていた。
暗き刃は天を裂くように震え、
禍々しい波動が周囲へ広がっていく。
昼であるはずの空が……沈んでいく。
光が退き、
影が満ち、
世界が“夜”へと飲まれていく。
アウレリアは呆然と呟いた。
—セロン……
一体……何という怪物を解き放ったの……?
その問いは風に溶け、
竜たちは本能で理解した。
これは、ただの人間が扱って良い力ではない。
そして――
戦場はついに
“神殺し”の領域へと踏み込む。
—続く—




