「黄金の太陽の顧問団」
アルゴシアの玉座の間には、重苦しい空気が満ちていた。
城塞都市の王は落ち着きなく歩き回り、
先ほど母に叩き潰された自尊心を抱えたエヴァンダーは沈んだまま座っていた。
だが――
今回の主役は彼ではなかった。
年長の王子の一人、テロンが堂々とした足取りで入室した。
彼こそ、本物の将軍の風格を備えた息子だった。
—父上、とテロンは低い声で言った。
—世界が燃えています。このままでは戦争の炎が我らの城壁に迫ります。
王は深くため息をついた。
—テロン……お前はどうすべきだと考える?
テロンはエヴァンダーを一瞥し、冷たく言った。
—我らがこの都市を守りたいのなら……
ハルト・アイザワと話し合うべきです。
エヴァンダーは驚愕して顔を上げた。
—あいつと? この状況でまだそんなことを言うのか?
テロンは視線をそらさなかった。
—レアンドロスと連合軍を止められる可能性がある者は、彼しかいません。
しかしハルトがここへ来ることはない……
お前がいる限りはな。
王は緊張した声で尋ねた。
—では……誰を会談に向かわせる?
テロンは静かに息を吸った。
—ハルト側から二名の使者を呼びましょう。
そうすれば、双方とも“罠”や“裏切り”を言い訳にできません。
王は頷いた。
—よかろう。使者を送れ。
太陽帝国の作戦室。
ハルトは報告を聞きながら地図に指先を置いた。
アウレリア、カオリ、マグノリアらが集まっている。
—中立の島か……
アルゴシアはレアンドロスに潰されるのを恐れている、とハルトは呟いた。
カオリが腕を組む。
—行くのはあなたなの?
—いや。
私が行けば戦争の宣言に等しい。
顧問を送る。
マグノリアが微笑む。
—誰を?
ハルトは手を上げ、ゆっくりと名を挙げた。
水晶杖を持ち、光の反射で織られたような衣装を纏う優雅な女。
幻術・感情操作・嘘の察知を得意とする。
彼女は芝居じみた礼をして現れた。
—我が王よ、政治的な欺きはわたくしの得意分野ですわ。
交渉いたします……あるいは、交渉“したように思わせて”みせます。
カオリはため息をついた。
—お願いだから、余計な外交問題を起こさないで。
ミラは否定もせず笑った。
続いて、青いマントを羽織り、魔銃を肩にかけたリリィが無表情に入ってきた。
—外交任務は得意じゃない、と彼女は言った。
—だが、もし誰かが攻撃してくるなら……撃つ前に倒す。
その後ろを、妹のローザ・フロストベインが静かに歩いた。
言葉を発さず、手話と鋭い眼差しで語る少女。
彼女の存在だけで場が引き締まる。
ハルトは地図と魔鍵を渡した。
—船は夜明けに出る。
三人を信頼する。
今回は交渉だけでなく……相手の“本心”を見抜いてこい。
ミラ・ミラージュは小さく拍手した。
—まあ! 秘密外交ミッション……最高に楽しいわ♡
リリィは彼女を撃ちたい目で睨んだ。
夜明けの光の下、
黒地に金の装飾を施した船が港に現れると、
ざわめきが広がった。
ハルトは三人の使者に歩み寄った。
—ミラ・ミラージュ卿。リリィ。ローザ。
今回の任務はただの外交ではない……“先読み”だ。
アルゴシアが降伏を望むのか……それとも裏切るつもりなのか。
必ず見極めてほしい。
リリィは無言で頷いた。
ローザは親指を立てた。
ミラはふっと微笑み、ハルトの手を勝手に取って口づけた。
—ご心配なく、我が王。
もし彼らが嘘を吐くなら……
私が“本当を喋りたい身体”に変えて差し上げますわ♡
カオリが即座に彼女の額を指でつついた。
—調子に乗るな、発光詐欺師!
ミラは笑いながら船へと乗り込んだ。
船が埠頭を離れ、静かに海へ滑り出す。
ハルトは黙って見送った。
アウレリアが隣に立つ。
—彼女たち……良い知らせを持ち帰ってくると思う?
ハルトは黄金の瞳を細めた。
—この戦いに“良い”知らせなど存在しない。
あるのは……真実だけだ。
朝の風が吹き、どこか不吉な気配を運んでくる。
そしてこの島で三人が掴む真実は――
アルゴシアの運命だけでなく、
世界の行方すら変えてしまうだろう。
——続く——




