「ガチャ王の動機——二度と手に入らないもの」
リラとセレスが月下で語り合った夜——
島は再び深い静寂に沈んだ。
海の下では守護の巨蛸が眠り、
兵たちは傷を癒し、
巫女たちは最後の松明を消していく。
ただ一人、
ハルトだけが眠れなかった。
彼は波打ち際まで歩き出した。
満月が黒い海に銀の道を描き、
まるでこれから始まる戦いへ導くかのようだった。
風が運んだのは——
仲間たちの笑い、涙、恐れ、そして願いの気配。
セレスの震える声が胸を刺した。
「怖いの……
最初に死ぬのは、私が嫌。」
そして、リラの静かな告白。
「死にたくない。
私は……生きる理由を手に入れたから。」
ハルトは目を閉じた。
久しぶりに、
その手がわずかに震えた。
「この子たちは……
本当に、唯一無二だ。」
アウレリア——誇りを燃やす竜の姫。
カオリ——揺るがぬ忠誠の騎士。
マルガリータ——危険な笑みを纏う鎖使い。
セレス——その歌声は神すらひざまずかせる。
リラ——震える心のまま撃ち抜く狙撃手。
モモチ——血を流しても笑う影の忍び。
ミティ——巨神を止めた海の精霊。
ハルトは深く息を吸い込んだ。
「失うわけにはいかない。」
海が岸を打ち、
その言葉を肯定するように轟いた。
彼は召喚書を開く。
ページには「名」と「力」と「星」が輝いている。
その時——
ふと、あり得ない思考がよぎった。
「……これは、まるでガチャだな。」
自嘲気味に笑う。
「ガチャには……
二度と出ない“限定”がある。」
本を空に掲げる。
「どうして、俺が引き当てた最高の一回を
誰かに奪われると思う?」
黄金の光がその瞳に宿った。
「奪わせない。」
砂が震え、
海がわずかに引いた。
召喚書のページが勝手に開く。
新たなスキルが浮かび上がった。
《ガチャ王の加護》
—「不可替の守護」
—近くの召喚体すべての力・防御・意志を大幅上昇
—“ハルトが戦う理由を思い出した時、自動発動”
ハルトは小さく笑った。
「感情で発動するスキルか……皮肉だな。」
その時、
背後の影からアウレリアが現れた。
「ハルト……」
彼が振り返ると、
アウレリアはまるで初めて出会ったかのように、
深く彼を見つめた。
「あなたは変わったわ。
以前より強い……けれど、人間らしい。」
ハルトは月を見上げた。
「王であるだけじゃ足りない。
彼女たちが“俺と一緒に運命を引いた”意味を、
俺自身が証明しなければならない。」
海が吠えた。
雲が裂けた。
ハルトは両腕を広げ、まるで大海すべてを抱きしめるかのように立った。
「アウレリア。
みんなに伝えてくれ。」
アウレリアは背筋を伸ばし、厳かに問う。
「何を、伝えればよいのですか?」
ハルトは拳を握りしめた。
「明日、俺たちが戦うのは帝国のためじゃない。
名誉のためでも、征服のためでもない。」
その声は揺るぎなく、力強く響いた。
「戦う理由は——
彼女たち一人ひとりが“唯一無二”だからだ。」
海風が金色の光を運ぶ。
「アウレリアの代わりなんてどこにもいない。
リラも。
セレスも。
カオリも。
ミティも。」
黄金の輝きがハルトの全身を包む。
「俺たちは“同じ結果が二度と出ないガチャ”だ。
だからこそ、手に入れたものは絶対に失わない。」
アウレリアは胸を熱くしながら微笑んだ。
「ハルト……今のがあなたの最高の演説よ。」
ハルトは遠く、闇を揺らすイカロスΩの影を見つめた。
「そして明日——
俺は見せてやる。
一度きりの“神引き”を絶対に手放さない男の力を。」
——つづく——




