「第一の島──ナウクリア炎上」
荒れた波が不規則に岸へ叩きつけていた。
海は嘘をつかない。
“何か巨大なもの”が迫っている。
アウレリアは、目立たぬよう翼を畳み、水平線をじっと見つめていた。
カオリが近づく。
「アウレリア……感じる?」
竜女は静かに頷いた。
「ええ。
海が震えている。
イカロスが動いてる……でもこちらへは来ていない。
旋回してるわ……まるで“完璧な攻撃角度”を探しているみたい。」
カオリは歯を食いしばった。
「それって……アカシがミティを追跡する方法を手に入れたってこと。」
アウレリアは、眠るミティがいる洞窟の方角を見つめた。
「それか……もっと最悪なこと。
“ハルトを追跡している”のかも。」
◆◆ 第一の島
ハルト一行が“第一の島”へ到着したのは夜明けだった。
ここはナウクリア本島とは違う。
熱帯の植物、黒い岩、そして──不自然な静寂。
ミティは淡水の泉で弱々しく浮かび、神官たちが彼女を癒やしていた。
ライラ・フロストベインはジャングルへ銃口を向ける。
「……この場所、気に入らない。
静かすぎる。」
マルガリータが笑った。
「そう言うもんじゃないよ、グエリタ。
静けさってのは……“何かヤバいのが挨拶しに来る前触れ”だよ?」
ハルトは島の中心へ向かった。
そこには、古代の封印が刻まれた光る巨石──モノリスがあった。
モモチが影の中から現れる。
「リーダー、見つけました。」
ハルトが振り返る。
「話せ。」
モモチは巨石の縁を指差した。
「岩が砕けています。
しかも……最近のもの。
これはイカロスの跡じゃありません……“巨大生物”のものです。」
カオリが顔を上げる。
「アカシの新しい召喚獣……?」
モモチは首を振った。
「いえ。
これは……深海のもの。」
その言葉に、皆の背筋が冷える。
◆◆ ハルト、作戦を発動する
ハルトはモノリスに触れ、流れる魔力の“振動”を感じ取った。
「これは“共鳴点”だ。
これを起動させれば……イカロスをここへ“引き寄せられる”。」
アウレリアは眉を寄せる。
「でも……何か別のものも目覚めるわ。
封印が弱っている。」
「分かっている。」
ハルトは静かに答える。
「だが、イカロスがハンター・モードに入った以上……
こちらが“戦場を決める”しかない。」
カオリは深く息を吐く。
「なら……起動しよう。」
ハルトは頷く。
「ライラ、モモチ、マルガリータ──準備しろ。
この島はこれより戦場となる。」
ハルトがモノリスに手を置く。
封印が光り──咆哮した。
KRRRAAAAAA——!!
大地が揺れる。
草木が逆風に押されるように後退する。
そして海から……“影”が立ち上がる。
カオリは思わず後ずさった。
「……なに、あれ……?」
アウレリアは槍を握りしめる。
「タコ……?
違う。“海の怪物”よ。」
六つの眼が同時に開く。
巨大な触手が水面から突き出し、大地の柱のように天へ伸びた。
マルガリータが口笛を吹く。
「うわぁ……これはさすがにブス。」
ハルトは一歩前へ進む。
「これは……ナウクリアの古代守護。
何世紀も前に封じられた“海の神獣”。
イカロスはこれを探知する……
そして“破壊しに来る”。」
カオリの顔が輝く。
「つまり……!
“巨獣同士の戦い”を、この島で起こすってことね!」
ハルトは微笑んだ。
「──その通りだ。」
神聖なる巨蛸はゆっくりと振り返った──
海ではなく……
……彼らのほうへ。
モモチが跳び上がる。
「退避!!
味方を認識していない!
守護ではなく“兵器”として目覚めている!!」
ライラが魔弾を撃ち、注意を逸らそうとする。
マルガリータは鎖を投げ、触手の一本を絡め取る。
アウレリアは竜の咆哮を放った。
ハルトは盾を展開しようと手を上げ──
だが、触手の一撃のほうが早かった。
ドォォォォォン!!!
島の地面が抉れ、巨大なクレーターが生まれる。
カオリは吹き飛ばされ──
アウレリアがぎりぎりで受け止めた。
ハルトは怪物を睨みつけ、怒りを噛み殺す。
「……制御できないなら、
イカロスが来る前に島が壊されるだけだ。」
召喚書を開く。
黄金の魔力が立ち昇る。
「《ガチャ召喚:ドミネーション・ロット》」
三つの光球が降り立つ。
だが形を成す前に──
空が暗くなった。
イカロスの影が、島全体を覆い尽くした。
ライラが震える声で囁く。
「……来た。」
遠く、まだ回復していないミティが目を開き、微かに呟く。
「ハルト……
今日は海が怯えてる……
海は……どちらも恐れている……」
巨蛸。
イカロス。
小さな島に、二体の巨獣。
その中心に立つのは──ハルト。
この章最大の戦いが、いま始まろうとしていた。
──つづく──




