「蒼風の守護者:タラシオス、聖なる蒼き蛸」
◆ ナウクリア島 ― 蒼風神殿の前
港の瓦礫はまだ海へと崩れ落ちていた。
震えるナウクリアの人々が、その統治者の背後に集まっていく。
ハルトはゆっくりと神殿の階段を上った。
アウレリア、カオリ、マルガリータ、モモチ、ライラ、そしてミティがその周囲を固める。
シレオンが絶望した声で叫んだ。
「神殿に近づくな!!
聖域に触れてはならん!!」
カオリが目を細める。
「何を隠している?」
シレオンは必死に首を振った。
「目覚めさせるな!
だめだ…絶対に刺激してはならん!!」
アウレリアが片眉を上げた。
「誰を“目覚めさせる”って?」
そのとき、大地が震えた。
深く、柔らかく、ほとんど音楽のような振動。
ハルトが足を止めた。
ミティの瞳が恐怖で開かれる。
「まさか…
ナウクリアの者たちは…これを封じていたの?」
モモチは短刀を抜いた。
「何が来る?」
神殿周辺の海水が持ち上がった。
上ではなく――
内側に。
まるで何か巨大な存在が海を吸い込んでいるかのように。
柱が震え、鐘が勝手に鳴り響く。
そして――
グロオオオオオオオオオオオオッ
神殿の奥から姿を現したのは――
巨大な蛸。
だが“怪物”ではなかった。
美しい。
塔のように長い触腕は空色に輝き、
黄金の古代文字のような紋様が走っている。
一つ一つの吸盤が海晶のように光を反射し、
巨大な瞳は優しく、神秘的な紫の光を宿していた。
まるで、液体の絹を纏った古代の神。
タラシオス。
蒼風神殿の美しき蛸。
蒼風の守護者。
セレスは思わず膝をついた。
「…美しい…」
ライラは銃を下ろし、息を呑む。
「こんな存在…見たことがない。」
アウレリアが唾を飲んだ。
「敵意は…まだない。」
シレオンは涙を流しながら崩れ落ちた。
「タラシオスよ!!
許してくれ!!
お前を目覚めさせるつもりはなかった!
島を滅ぼす気など――!」
タラシオスは優雅に触腕を一つ揺らした。
そして悠然と頭を下げ、ハルトの前に身を傾ける。
見た。
読み取った。
認めた。
ミティが小声で言う。
「この存在は…獣ではない。
海の古き長老。守護の精霊よ。」
ハルトが一歩進む。
「タラシオス。
俺は島を破壊しに来たわけじゃない。
戦争を止めに来た。」
タラシオスは頭を傾け、瞳を深く光らせた。
タラシオス(穏やかな念話)
『戦を望んでいるのは我らではない…
影から糸を引く者だ。
お前がハルト…
潮流を震わせる者か?』
ハルトは静かに頷く。
「そうだ。
俺は力をもって平和を掴みに来た。
ナウクリアに血を流さず降伏してほしい。」
シレオンが絶叫する。
「こいつの言葉を信じるな、タラシオス!!
こいつは艦隊を沈めた悪魔だ!!
我らの――」
タラシオスが触腕を叩きつけた。
バキィィィィィン!!
大地が揺れた。
――黙れ、という意思。
タラシオスは再びハルトを見つめた。
タラシオス:
『お前は船を沈めたが…
民は沈めなかった。
その手は正しき力。
その力は…驕りではなく、目的のため。』
カオリ、マルガリータ、アウレリアが息を呑む。
海の守護精がハルトの“心”を評価するなど、聞いたことがなかった。
タラシオスは瞳を閉じ、そして再び開いた。
光は先ほどよりも強い。
タラシオス:
『我は…太陽帝国に従おう。
誇りよりも和平を取る。
だが、その代わり――』
ハルトの表情が引き締まる。
「望みを言え。」
タラシオスが巨体を傾け、迫るように顔を近づける。
タラシオス:
『この島を守れ。
我らを守れ。
海底で目覚めつつある“怪物”から――
すなわち、イーカロスから。』
ミティが息を呑んだ。
「……彼も感じているのね。」
ハルトは一歩前へ進んだ。
恐れなど微塵もなく。
ハルトは静かに宣言した。
「――望むままに。
この名にかけて誓おう。」
タラシオスが一本の触腕を差し出す。
ハルトはその上に手を置いた。
それは“契約”だった。
黄金の光が海岸一帯を包み込む。
ナウクリアは――
今、この瞬間に降伏した。
だが、そのとき。
ドオオオオオオオオオオンッ!!
海の地平線で、異様な爆音が響き渡った。
ミティが蒼白になる。
「ハルト…
今のは普通のゴーレムじゃない。」
アウレリアが呟く。
「……来たのね。」
ライラは即座に銃を構えた。
「イーカロスが接近している。」
ハルトは剣を握りしめる。
「ならば――
本当の戦いはここからだ。」
タラシオスは天へと触腕を掲げる。
タラシオス:
『ハルトよ…
海は汝の歩む道に従おう。
だが覚悟せよ――
イーカロスは“お前”を狙って来る。』
地平線に浮かび上がった影は、
黒い第二の月のように巨大だった。
――続く――
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