「イリアンドロス諸島環(サークル)」
◆ 内海の青砂漠 ―― アガメトス王国艦隊
波が鉄の拳のように船体へ叩きつけられ、
巨大な青い内海は荒れ狂っていた。
青銅の盾で装飾されたアガメトスの大船たちは、
前へ進みたくても進めない。
近づけないのだ。
遠く――轟音。
――ボオオオオオオオオム!!
空を横切った巨岩が、
海に突き刺さるように落ち、
塔のような水柱が立ち上がった。
「退却だ!! このままでは沈む!!」
船長が叫ぶ。
アガメトス王は怒りに赤く染まった顔で舵を握りしめた。
「奴らのゴーレム……っ!
アカシめ……!
海岸すら見えん!!
霧と断崖に完全に隠れている!!」
側にいた参謀が躊躇いがちに口を開く。
「陛下……もう一つ問題がございます……」
アガメトスは怒気を込めて睨みつける。
「まだあるのか?」
「イリアンドロスの同盟諸島……
ナウクリア、セロス、オニクシア、そして都市国家ピュレロスが――」
アガメトスの表情が険しく固まる。
「あの裏切り者どもが……」
参謀はごくりと唾を飲む。
「敵側に援軍を送っております。
船も、兵も、そして――
ゴーレムへの補給物資までも。」
アガメトスは苦々しく目を閉じた。
「これで正式に決まったな。
……これは、大陸規模の戦争 だ。」
◆ 黄金太陽帝国 ―― 地図室
魔法によって投影された大地図が、
光の波となって机の上に広がっていた。
イリアンドロスを囲むように、九つの島が円を成している。
アウレリアが一つを指さす。
「ここがナウクリア。
高速船で有名。……昔から傲慢よね。」
カオリは別の島を指示した。
「セロス……
槍投げの名手の国。
イリアンドロス王家とは何百年も同盟関係。」
マルガリータは拳でテーブルを叩く。
「オニクシア……
メキシコで戦った連中に似てるなら、厄介ね。」
ハルトは深く息を吸った。
「もう一国との戦争ではない。
敵は“諸島ネットワーク”全体だ。」
アウレリアが腕を組む。
「……どう動く?」
ハルトは目を閉じ、思考を深めた。
「協力体制を壊す。
分断する。
互いに争わせる……」
そして静かに目を開く。
「……もしくは、
彼らが皆恐れる“何か”を使う。」
カオリが手を挙げた。
「島国が恐れるものって……何?」
マルガリータがニヤリと笑う。
「それは決まってる。
海の下から来る敵よ。」
アウレリアが驚きに目を見開く。
「ハルト……まさか――」
ハルトは頷いた。
「だがまずは、
アカシが“何を造っているのか”を知らねばならない。」
◆ 禁海の海底研究所 ―― アカシ
洞窟の天井から水滴が落ちる。
周囲の古代ルーンが青白く脈動していた。
その中心で、
巨大な影が静かに横たわっている。
イーカロス。
通常のゴーレムの“五倍”の巨体。
古代石材と天金属――
そして“何か”が混ざった異形。
アカシは奇怪な文字が並ぶ巻物を読みながら、
その胸部に近づく。
「もう少しだ……我が巨兵よ。」
青い結晶の杖を取り出し、
胸に深く突き立てた。
低い音が空間を震わせる。
――ヴオオオオオオオオオオオ……
イーカロスの片目が開く。
ひとつだけの眼。
青く、深く、
恐ろしいほど**“生きている”**光。
アカシは狂気を帯びた笑みを浮かべた。
「そうだ……目覚めろ。
お前はただの兵器じゃない。
――ハルトへの、俺の復讐だ。」
金属が擦れるような声が、
巨大な存在の喉から響いた。
イーカロス:
『目標――黄金の太陽。
認証……完了。』
アカシは笑いを抑えきれない。
「もうすぐだ……
お前が一歩踏み出すだけで――
世界は震え上がる。」
◆ 黄金太陽帝国
ハルトは言葉を止めた。
胸が、一瞬だけ――
止まった。
空気が変わった。
何かが響いた。
何かが“起動”した気配。
アウレリアがすぐに気づく。
「ハルト……どうしたの?」
ハルトは震えるように目を開いた。
「アカシが……
“何か巨大なもの”を動かした。」
カオリの顔が青ざめる。
「ど、どれくらい……巨大なの?」
ハルトは喉を鳴らした。
「……国ひとつを
沈められるほどだ。」
三人の妻は凍りついた。
黄金の太陽帝国は――
ついに“最大の敵”と対峙する。
――つづく――




