「封じられた海岸――ゴーレムの壁」
◆ 黄金太陽帝国・戦議の間
アジャックスからの書状を読み終えるまで、
使者は砂まみれのまま膝をつき、荒い息を吐き続けていた。
ハルトのそばには、アウレリア、カオリ、マルガリータの三人が並び立つ。
カオリが眉をひそめる。
「ハルト……挑発に応じるつもり?」
ハルトが返事をしようとした、その瞬間――
別の伝令が戦議の扉を荒々しく開け、
汗と砂にまみれた姿で飛び込んできた。
「はっ……!! 皇帝ハルト陛下!! 大変でございます!!
海岸線が封鎖されました!!」
ハルトは即座に立ち上がった。
「封鎖……?
どういう意味だ?」
兵士は震える呼吸を整えながら言う。
「ご、ゴーレムです!
アカシ殿が……イリアンドロス沿岸の城壁に、五十体以上配置を……!」
アウレリアが一歩前に出る。
「五十体……?
そのゴーレムは何をしているの?」
兵士は恐怖を飲み込むように喉を鳴らした。
「巨岩を投げています……!
投石器ではなく……自分の腕で……!」
カオリの顔が青ざめる。
「射程は……どれくらい?」
兵士は震える声で答えた。
「……お、およそ三キロ先までです。
接近しようとする船は……途中で粉砕されます……!」
ハルトは奥歯を噛みしめる。
「つまり……近づくことすらできないのか。」
兵士は首を横に振る。
「アガメトス王の艦隊でさえ接近できませんでした。
イリアンドロスの海岸は今や“生きた城壁”……
岩が飛び交う地獄です。
――到達は不可能かと。」
重い沈黙が戦議の間を満たした。
その沈黙を破ったのは、マルガリータだった。
「……あのアカシのクソ天才。
大陸丸ごと封鎖するなんて、本気ね。」
カオリは机を叩きつける。
「ハルト! ゴーレムを壊さないと……誰も助けられない!」
アウレリアは地図を見つめながら分析した。
「五十体以上……しかも横一直線……
これは防衛だけじゃない。」
ハルトが尋ねる。
「どういう意味だ、アウレリア?」
彼女の瞳がドラゴンの光でゆっくりと輝いた。
「宣告よ。
アカシはこう言っているの。
“近寄るな。”
そしてもう一つ――
“この海はすでに私の支配下だ。”」
ハルトは拳を強く握りしめる。
「……挑んできているな。」
◆ イリアンドロスの絶望
アガメトス王国からの使者が震える声で続ける。
「皇帝ハルト陛下……
我々の王も出航できず……
近づく船は次々と破壊され……」
「アガメトス様は接近を試みて負傷……
リアンドロス王は船を二隻失いました。
アジャックスは激怒し……
“唯一この封鎖を破れるのはお前だけだ”と……
陛下の出陣を強く望んでいます。」
ハルトは息を呑んだ。
「つまりこれは……挑発ではない。」
アウレリアが頷く。
「罠よ。
あなたを追い詰め、単独で来させるための戦争――
“あなたを倒すための戦場”を作っている。」
カオリは一歩前へ出る。
「なら……私たちも一緒に行く!
ハルトを一人で行かせるなんて絶対にしない!」
マルガリータも腕を絡める。
「アジャックスがあなたを呼ぶなら……
私たちが“妻”としてついて行くのは当然よ。」
ハルトはしばらく黙り、深く息を吸う。
そして宣言した。
「まずは――
あのゴーレムの壁を破壊する。」
三人の妻は一斉に頷いた。
アウレリアが微笑む。
「ならば……
“太陽”と“石壁”の戦いが始まるわね。」
その頃――イリアンドロスの城壁上では。
アカシは、海を見下ろすようにして
霧の向こう、視界の外に停泊させた旗艦の上から
静かに微笑んでいた。
「さあ……来いよ、ハルト。
挑んでみせろ。」
その背後――
濃い霧の奥で、巨大な影がゆっくりと動いた。
先の五十体など玩具に見えるほどの、
圧倒的な質量を持つ“巨影”。
その名は――
イーカロス。
アカシは、小さく呟いた。
「戦いは……まだ始まったばかりだ。」
――第○章・了。




