「潮の集会:南方軍の目覚め」
◆ イリアンドロス沿岸 ― 血染めの夜明け ◆
まだ太陽は昇っていなかった。
だが、海岸はすでに震えていた。
数千の兵が砂浜を埋め尽くし、
赤と黄金の帆を掲げた戦艦が港にぶつかり、
青銅で覆われた戦車、
林のようにそびえる無数の槍――。
百年ぶりに、
六人の王が一つの号令に応じた。
レアンドロスの号令だ。
潮風の中、重く、地を揺らすような足音が聞こえる。
アジャクスだった。
南方の巨人とも呼ばれる男は、まるで生きた巨像のように浜辺を進む。
兵たちは彼を見るたびに本能的に視線を落とした。
敬意でも礼儀でもない。
恐怖である。
アジャクスがレアンドロスの前で立ち止まる。
—王たちは到着した。
約束より遅れたが……生きている。
レアンドロスは静かにうなずく。
—来ればそれでいい。
遠くから角笛が鳴り響く。
深く、古の響き。
地平線から狼を象った船首を持つ船が姿を現した。
石谷の王、オレスタスだ。
船を降りたオレスタスは砂浜を踏みしめ、低くうなる。
—レアンドロスよ、古き友よ。
呼ばれたからには来たぞ。
で、誰が貴様の一族に手を出した?
レアンドロスは無言で後ろを指した。
炎の前で膝をつくアガメトス。
握り締めた拳。
屈辱で引きつった顔。
オレスタスは小さくつぶやいた。
—……全て察した。
再び角笛。
さらに多くの船。
百断崖の王・クレオメデス。
白砂漠の王・サロール。
十七部族の王子・ダマリオン。
皆、強国の支配者。
かつてレアンドロスが屈服させた相手。
いまは避けられぬ戦のために集う同盟者。
オレスタスが口を開く。
—本当か?
城壁都市の王子に、お前の妃が奪われたと?
アガメトスは歯ぎしりをした。
—ああ……!
妻を……目の前で奪われた。
俺の名も、誇りも踏みにじられた!
クレオメデスが顔をゆがめる。
—しかも、あの悪魔“アカシ”がそこにいると?
レアンドロスは、山のように冷たい声で言った。
—アカシは巨像、ゴーレム……禁じられた兵器を作り出した。
そしてアルゴシアの古き城壁に閉じこもった。
サロールは唾を吐く。
—賢い臆病者か。
ダマリオンがアジャクスを見る。
—で、お前は?
参戦するのか?
アジャクスはゆっくり笑う。
危険な笑み。
—強敵がいる限り、俺の足は戦場へ向かう。
そしてその強敵が“ハルト”なら……
その笑みは獣の牙のように鋭くなる。
—……なおさらだ。
名前が落ちるだけで、空気が震えた。
ハルト。
黄金の太陽帝。
六人の王は互いに視線を交わす。
そこにあるのは恐怖ではない。
畏怖と警戒だ。
オレスタスが言う。
—噂を聞いたぞ。
・血を流さずに国を落とした
・王を家族の前で処刑した
・怪物を呼び出せる
レアンドロスは手を上げた。
—ハルトは敵ではない。
オレスタスは眉を上げる。
—では何だ?
レアンドロスは深く息を吸う。
—“変数”だ。
奴が動けば、この戦争は……形を変える。
アジャクスは豪快に笑った。
—だからこそ見てみたい。
“黄金の太陽”とやらが、俺より眩しく光るかどうか!
王たちの背筋を震わせたのは、ハルトではなかった。
アジャクスそのものだった。
レアンドロスは剣を砂に突き立てた。
大地そのものが目を覚ましたかのように震える。
—イリアンドロスの諸王よ!
今日の戦は征服のためではない。
血のため。
名誉のため。
裏切られた王国のため!
王たちは一斉に武器を掲げる。
オレスタス:
—我らの潮流で、奴らの城壁を洗い流せ!
クレオメデス:
—崖の怒りで、誇りを砕け!
サロール:
—砂漠の風で、奴らを塵と化せ!
ダマリオン:
—部族の刃で、鉄を奪い、何も残すな!
アジャクスは巨槍を天へ向けた。
—そして俺は……
最初に立ちはだかる愚か者を叩き潰す!
風が唸り、
黄金の砂が舞い上がり、
船はすでに動き始めていた。
潮が揺れ、
大地が黙し、
神々でさえ沈黙する。
六つの王国が、一つの都市へ向かって進軍を始めた。
レアンドロスは水平線を見つめた。
――エヴァンダー、ヘランドラ……
お前たちは嵐を呼び起こした。
次に北へと視線を向ける。
――ハルト……
もしこの戦に踏み込むなら、選ばねばならぬ。
アジャクスは不敵に笑った。
王たちは槍を構え、緊張が走る。
そして――
艦隊は出航した。
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