「戦乱の中で微笑む者 ― 工智の王」
アルゴシアの城壁には緊張が走っていた。
エヴァンダーとヘランドラは軍備の準備を見下ろしていた。
兵士たちは正門を補強し、松明が燃え、アカシが新たに作り出したゴーレムたちが角という角を巡回している。
ふいに、ラッパの音が響いた。
兵士たち
「馬車が来るぞ!」
「レアンドロスではない!」
「従属王たちでもない!」
ヘランドラが眉をひそめる。
ヘランドラ
「こんな時に…誰が来るというの?」
馬車は城壁前で止まった。
それは小さく、白木で作られ、古代のルーンが刻まれていた。
そこから降りてきた男は――
・黒く柔らかく巻いた髪
・銀に近い灰色の瞳
・深い紺の長衣
・穏やかな笑み
・銀狼の装飾がついた湾曲した杖
兵士が息をのむ。
兵士
「その紋章は…!
これは…ドロシアの印……!」
エヴァンダーの顔が青ざめた。
エヴァンダー
「…レアンドロスが落とせなかった南方王国!
古代帝国ですら屈服させられなかった国…!」
ヘランドラが一歩後ずさる。
ヘランドラ
「もしや彼は…?」
男は城壁を見上げ、柔らかく笑った。
男
「中に入れていただけますか?
外から交渉するのは無作法でしょう。」
アルゴシア全土がざわめいた。
兵士たちは勇気か恐怖かわからないまま門を開いた。
男は自宅を歩くかのように悠然と城内へ入っていく。
ヘランドラ
「あなたは…誰…?」
男は完璧な、優雅でありながら毒を含んだ礼をした。
男
「私は――ドロシア王、オドリアスと申します。」
エヴァンダーの目が大きく開かれる。
エヴァンダー
「大陸で最も“狡猾な王”……!」
噂では語り尽くせない。
・剣を振るわず軍を退け
・血一滴流さず王を退位させ
・暗殺十四回を生き延び
・戦争すら遊戯のように操り
・味方か敵か誰にも読めない
オドリアスはヘランドラをじっと見た。
オドリアス
「あなたの……複雑な状況は把握していますよ。」
ヘランドラが息を飲む。
彼は近くの机にあった“永劫の巨像”の金属片を手に取る。
それを指で回しながら、目だけが鋭く光る。
オドリアス
「アカシは制御不能。
征服王レアンドロスは激怒。
アガメトスは復讐に燃え。
そしてハルトは――」
一度、言葉を切る。
笑みがより鋭く毒を帯びた。
オドリアス
「――ただ静かに、最適な瞬間を待っている。」
エヴァンダーは剣を構える。
エヴァンダー
「何しに来た!
ここはお前の戦場ではない!」
オドリアスは微笑んだまま歩み寄る。
オドリアス
「世界が燃えようとしている時、
“関係のない争い”など存在しませんよ。」
ヘランドラ
「あなたは…私たちを助けに?
それともアカシの目的を果たしに来たの…?」
オドリアスの瞳が冷たく輝く。
オドリアス
「どちらでもない。
私は――退屈していたのです。」
エヴァンダー
「な……!」
オドリアスは楽しげに笑う。
オドリアス
「そして、この大陸を本当に統べるべき“者”が誰なのか……
見極めたくなった。」
彼は窓辺に歩き、
レアンドロスの軍勢が動き始める地平線を眺めた。
オドリアス
「いま、世界は“王”と“怪物”に分かれようとしている。」
その手が、アルゴシアの壁を軽く叩く。
オドリアス
「そして――壁が崩れる時、王国も崩れる。」
ヘランドラは凍りつく。
エヴァンダーは拳を握りしめる。
オドリアスは晴れやかに、しかし刃のように危険な笑みを浮かべた。
オドリアス
「だから私は来たのです。
歴史上、最高の見世物を――
この目で楽しむために。」
震える足取りで、ひとりの兵士が駆け込んできた。
兵士
「オドリアス王……!
“永劫の巨像”が……
命令なしに動き始めました!」
オドリアスはさらに微笑みを深めた。
オドリアス
「――完璧だ。」
――続く――
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