再会の光と影
夜明けは黒い雲に覆われて訪れた。
青の王国の塔からは、数千の兵士たち──ツキシロ王妃の操る「人形兵」が隊列を組んで待機していた。
その目は虚ろで、動きは完璧。
人間の声はなく、ただ風が呪文の残響を引きずっていた。
王妃はバルコニーの上からそれを見下ろし、青い杖を光らせていた。
「混沌は…あまりにも行きすぎた」彼女は囁いた。
「今日、すべてを終わらせる」
その軍勢は一斉に動き、金属の波のように広がっていった。
だが遠く、山々の間で──黄金の太陽もまた、目を覚ましていた。
王都を囲む森の中、相沢ハルトとその仲間たちは魔法の地図の上で作戦を練っていた。
地図に浮かぶ金の線は、王妃の精神支配塔をつなぐ魔力の経路を示していた。
「すべてを壊すのは無理ね」とカオリが封印を見ながら言った。
「五十以上あるし、それぞれが何百という人形兵を支えてる」
ハルトは静かに顔を上げた。
「壊す必要はない。分断すればいい」
黒装束と狐の仮面を身に着けたモモチがうなずく。
「指揮網を切る…部隊を孤立させる。
王妃が全体を見られなければ、制御を失う」
アウレリアは、雨の中で炎のように輝く金髪をなびかせ、翼を広げた。
「私は上空から攻めるわ。魔力の流れを断てば、彼女の術式は崩れる」
黒いソンブレロをかぶったマルガリータは、笑みを浮かべながら鞭を鳴らした。
「側面に印をつけてやるわ。迷った奴らは、私が片付ける」
ハルトは手を下ろし、揺るがぬ声で言った。
「今日、我々が奪うのは国ではない──
心の自由だ」
最初の衝撃が王都を揺らしたのは、アウレリアが銀の竜となって空から降り立ったときだった。
その咆哮は空気を裂き、魔力の波動が人形兵の結び目を断ち切った。
指示を失った兵たちは、混乱し、ぶつかり合った。
モモチは地下の通路から潜入し、エネルギーの短剣で支配の封印を破壊していった。
塔が一つ崩れるごとに、数百の兵が動きを失った。
「第三塔…無力化完了」──彼女は静かに報告し、煙の中へと消えた。
マルガリータは街中で鞭を振るい、青い炎で敵をなぎ倒しながら、解放された者たちの集合地点を刻んだ。
一方、カオリは〈絶対共感〉の力を使い、混乱する兵の顔に手を添えた。
「思い出して…」彼女は囁いた。
「あなたは彼女のために戦ってるんじゃない。あなた自身のために」
戦場は、光と火と意志が交錯する交響曲となった。
王妃の軍は、力によってではなく──真実によって崩れていった。
塔の上から、王妃はその崩壊を感じていた。
精神の接続が断ち切られ、兵が一人、また一人と、彼女の支配から離れていった。
それは、心の繊維が千切れるような痛みだった。
「あり得ない!」彼女は杖で床を打ちつけ、叫んだ。
「私が創ったのだ! 私が統一したのに!」
青い魔力が空気を震わせた。
彼女は術を再構築しようとしたが、魔法陣は黄金の光を帯びて反抗し始めていた。
そのとき、彼女は“それ”を感じた。
あまりにもよく知る存在。
かつて消えたはずのエネルギー。
「…そんな…」彼女は目を見開いた。
「あなたは死んだはず…」
煙と瓦礫と黄金の火の中から、一人の人物がゆっくりと現れた。
風が彼のマントをはためかせ、朝日の光がその金の瞳を照らす。
相沢ハルトだった。
彼女自身が「無能」と切り捨て、裏切り、置き去りにした男。
今、その背に“自らの太陽”を背負って現れた。
王妃は一歩後退し、その声は初めて震えた。
「…いや…そんな…
あなたは…死んだはず…」
ハルトは顔を上げ、静かに言った。
その胸に輝く黄金の紋章が、玉座の間を照らした。
「確かに死んだ」
「だがそれは、お前が作った世界の中でのことだ」
「今日は──その世界に、命を返しに来た」
空気が凍った。
王妃の操る青い糸は、一筋ずつほどけていった。
軍勢は完全に停止し、
そこに立つのはただ二人──光と闇の狭間に立つ、王妃とハルトだけだった。
秩序の女王と、夜明けの男。
終わりの始まりが、ついに幕を開けた。
――つづく。
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