「アガメトス王、動く ― イリアンドロスに吹き始める戦の風」
“聖なる谷の獅子”と呼ばれるピュルゴス王アガメトスは、
黒石の要塞で報告を受けていた。
伝令たちは汗を流し、震えながら駆け込んでくる。
伝令
「陛下……!
西方帝国が……陥落しました……
その首謀者は――ハルト・アイザワとのことです!」
大広間は一瞬で静まり返った。
松明の炎が揺れ、
兵士たちは息を呑む。
アガメトスはゆっくりと赤い大理石の王座から立ち上がった。
その目は燃える炭火のように赤く輝く。
アガメトス
「……黄金の太陽の噂は、真実だったか。」
もう一人の伝令がひざまずき、声を震わせた。
伝令2
「さらに、陛下……
我らの同盟国、アルビオル帝国も動き始めています。
ハルトは領土を奪うだけでなく……
次はイリアンドロスへ来るつもりのようです。」
恐怖のざわめきが広間を走る。
アガメトスは短く目を閉じ、
まるで“味わう”ように情報を受け止めた。
そして、顔を上げたとき――
その口元には笑みが浮かんでいた。
アガメトス
「ついに来るか。
王国を震わせた男が……
ここまで来るのだな。」
そのとき、石のように冷たい瞳を持つ長子、
アステリオン皇太子が堂々と歩み入る。
アステリオン
「父上、何が起こったのです?」
アガメトスは広げられた地図を指し示した。
アガメトス
「黄金の太陽は我らへ向かっている。
アルビオル帝国も艦隊を整えている。」
アステリオンは深く息を吸う。
アステリオン
「では……戦の準備を。」
しかしアガメトスは首を振った。
アガメトス
「いや、ここではない。」
アステリオン
「どういう意味でしょう?」
アガメトスは息子の肩に重い手を置いた。
アガメトス
「私が直接迎え撃つ。
肌を裂く風が吹くオリスロス山脈へ向かう。
イリアンドロスに足を踏み入れる前に――
西方の征服者を討つ。」
アステリオンは驚愕に目を見開いた。
アステリオン
「お一人で?」
アガメトス
「一人ではない。
お前も連れていく。
そしてピュルゴス最強の戦士たちもだ。」
その時、大扉が開き、王妃ヘランドラが現れた。
威厳に満ちた存在感、鋭い眼差し、そして揺るがぬ声。
ヘランドラ
「アガメトス。
どこへ行くつもり?
私に何一つ相談もなく?」
アガメトスは歩み寄り、
静かに王妃の両手を取った。
アガメトス
「ヘランドラ。
ハルトが来るのなら……
戦を都市に近づけるわけにはいかぬ。」
王妃はかすかに息を飲んだが、涙は見せない。
強き王妃の証だった。
ヘランドラ
「……では、私が王国を預かるのですね。」
アガメトスは深く頷く。
アガメトス
「お前以上に適任はいない。
諸王をまとめ、イリアンドロスを割れさせるな。
そして……
もし私に何かあれば――」
彼は王妃の額に触れるほど近づいて囁いた。
「お前がすべての指揮権を握れ。」
ヘランドラは静かに目を伏せた。
その後ろから、
テルマリスの宴に参加していた次子、ダリオスが姿を現す。
ダリオス
「父上。
我が身が必要なら言ってください。
戦でも、交渉でも……
母上を守って死ねと言われても構いません。」
アガメトスは優しく息子の頭に手を置く。
アガメトス
「お前は来てはならぬ。
お前の戦場は私ではない……
“彼女”のもとだ。」
ヘランドラは息を整え、
静かだが威厳ある声で言った。
ヘランドラ
「ダリオス。
テルマリスを守りなさい。
イリアンドロスを守りなさい。
そして――
何より、私の命を守りなさい。」
ダリオスは深く頭を垂れた。
ダリオス
「この命にかえても。」
アガメトスは宮殿の出口へと歩み出た。
熱い谷風が吹き込み、
その外套を激しく揺らす。
アガメトス
「アステリオン、〈赤き盾〉を準備せよ。
夜明けとともに出発する。」
アステリオン
「承知しました、父上。」
その時、王妃ヘランドラが最後に彼の手を取った。
ヘランドラ
「アガメトス……
ハルトを侮ってはなりません。」
アガメトスは獰猛な笑みを浮かべた。
アガメトス
「誰も侮らぬさ。
だが……奴には私を侮らせてやる。」
彼はゆっくりと背を向ける。
そのマントは、まるで獅子の咆哮のように風に翻った。
アガメトス
「ハルト・アイザワよ……
お前の“黄金の太陽”が、
イリアンドロスの闇でも輝けるか――
見せてもらおう。」
――章末――
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