「城壁都市テルマリス ― 王子たちの宴」
城壁都市テルマリスは夕陽を受け、黄金のように輝いていた。
円環状に重なる三重の城壁はイリアンドロス全土にその名を轟かせ、
街の上空では“嵐の紋章”が静かに翻っている。
今日は特別な日だった。
嵐王タルコンとその妻、リサンドラ王妃が
大宮殿の大階段で訪問者を待っていた。
銀髪を長く垂らし、空色の衣をまとった王妃はまるで生きた彫像のよう。
王は背の高い壮麗な姿で、厳粛さを崩さない。
やがて衛兵たちが扉を開いた。
そして――
本日の主賓が入場する。
ピュルゴスの二人の王子。
兄、アガメトスの弟でもあるアルケオン王子。
そして笑みを浮かべる、鋭い目の若き王子ダリオス。
アルケオンは優雅に馬車を降りた。
アルケオン
「タルコン王、リサンドラ王妃。
テルマリス――イリアンドロス最強の城塞に迎えられるとは光栄です。」
王妃は柔らかく微笑む。
リサンドラ
「こちらこそ、お二人をお迎えできて光栄です。
テルマリスはこの日を長く待ち望んでいました。」
ダリオスは気さくに前へ出ると、冗談めかした笑みを見せた。
ダリオス
「正直……詩で語られるほど、この城壁が本当に大きいのか気になっていたんだ。」
タルコン王は豪快に笑う。
タルコン
「ハッハッ!
しばらく滞在するなら、頂まで登らせてやろう。
頂上からはイリアンドロス全土が見渡せるぞ。」
雰囲気は温かく、まるで旧友の再会のようだった。
侍従たちは甘い果実、焼きたてのパン、透明な葡萄酒を運び、歓迎は整っていく。
◆ 正式な出迎え
リサンドラ王妃は彼らと並んで歩きながら、宴の間へ案内する。
リサンドラ
「この訪問は、両都市にとって新たな始まりとなります。
ピュルゴスとテルマリスは代々の宿敵……
ですが、本日でその影は終わりを迎えます。」
アルケオンは静かに頷いた。
アルケオン
「兄アガメトスも同じ願いを抱いています。
そして……誰よりも私自身、この条約が実現することを願っておりました。」
王妃は彼の表情を一瞬じっと見つめ、
その奥にある誠意を探るように微笑んだ。
リサンドラ
「あなたの瞳は誠実ですね、アルケオン殿下。
ピュルゴスは、確かに私たちの信頼を得ました。」
タルコン王は若きダリオスの肩を軽く叩いた。
タルコン
「ダリオスよ。
お前の父はイリアンドロスでも恐れられる王だが……
その息子はずいぶんと外交的らしいな。」
ダリオス
「まあ……兄上、アガメトスの気性を誰かが中和させないといけませんし。」
三人は声を上げて笑い、
長年の氷が音を立てて崩れていった。
◆ 宴の大広間
大扉が開かれ、二人の王子は思わず息を呑む。
・稲妻と風を象った高い柱
・青い水晶で作られた巨大なシャンデリア
・白い花と黄金の杯で飾られた食卓
・竪琴と柔らかな太鼓を調律する楽師たち
リサンドラ王妃は優雅に手を差し伸べた。
リサンドラ
「アルケオン殿下、ダリオス殿下。
テルマリスは心よりあなた方を歓迎します。
本日、長き に幕を下ろしましょう。」
アルケオンは深く礼をした。
アルケオン
「この同盟が、我らの剣よりも長く続かんことを。」
タルコン王は杯を掲げた。
タルコン
「ピュルゴスの王の御子らよ。
今日こそ、戦から――
兄弟の絆へと歩み出す日である。」
ダリオスも杯を持ち上げる。
ダリオス
「そして吟遊詩人たちが語るだろう。
“平和をもたらした王子たち”として。」
皆が笑みを交わす。
すべてが理想的に見えた。
音楽が始まり、
料理が並べられ、
歓談が広がる。
まさに、平穏と希望のひととき――
だがその中で。
リサンドラ王妃は杯を傾けながら、
胸の奥に小さな棘のような不安を覚えていた。
この宴も、この同盟も――
すぐに試される時が来る。
そんな予感が離れなかった。
そしてテルマリスの深層。
巨大な城壁の影の奥――
誰にも気づかれず、
名も告げられず、
ただ静かに“それ”を見つめる者がいた。
友好的ではない、
冷たく鋭い視線で。




