「英雄詠われる国――イリアンドロス」
知られた海の遥か彼方。
帝国の地図が白紙になる“その先”に――
ほとんど語られず、誰の記憶にも残らない地域があった。
イリアンドロス。
“歌”の国。
英雄が生まれるのではなく――鍛えられる土地。
そこはひとつの王国ではない。
皇帝も、絶対的な王も存在しない。
五つの「都市国家」からなる独立の地。
各都市を治めるのは、血筋ではなく“武勲”によって選ばれた戦士王――バシレウス。
その五つとは――
1.ピュルゴス ―― 槍の都
武人が名誉の死を求め、槍を掲げる土地。
2.タラッサ ―― 海の都
矢のごとく速い戦船、接近戦に長けた海兵たち。
3.ミュリティオン ―― 賢者の都
預言者、軍略家、戦の哲学者が集う地。
4.アテロス ―― 光の都
神聖術を操る巫女と聖騎士の街。
5.ドラコニス ―― 巨人の都
古き加護を受けた英雄の血を継ぐ、巨躯の戦士たち。
五つの都市は常に議論し、争い、競い合う。
だが――
外敵が現れた瞬間、
彼らは一つの“国家”となる。
千年前もそうだった。
そして今また、その時が迫っていた。
◆ イリアンドロス評議会
白亜の円柱に囲まれ、天井のない円形神殿。
その中心に、五人のバシレウスが立つ。
赤槍を携えたピュルゴスの戦王。
光の槍を持つアテロスの女王。
魔導書を浮かせるミュリティオンの賢者。
青い結晶鎧に身を包むタラッサの海将。
そして“巨人の子”と呼ばれるドラコニスの大戦士。
全員が、中央に立つ一人の男を見つめていた。
――アカシ。
長旅で汚れた衣。
だが笑みだけは曇らない。
アカシ
「ハルト・アイザワは……すでに三つの帝国を手中に収めた。」
ざわり、と柱の間で風が鳴る。
アテロスの女王
「彼は……本当に“堕ちた英雄”なのか?」
アカシは首を横に振った。
アカシ
「違う。
彼は――あまりにも早く学ぶ“王”だ。」
ピュルゴスの王が槍で床を鳴らす。
ピュルゴス
「我らが恐れる理由などあるか?
歌に詠われし我らイリアンドロスが、異国の若王を恐れると?」
アカシは魔法の石板を掲げる。
石板に映るのは――
ハルトとアウレリアの結婚の光景。
黄金の太陽。
果てなき兵の影。
そして――
戦でハルトが召喚した“ダイヤモンドの巨神”。
神殿の柱がわずかに震えた。
ミュリティオンの賢者は本を閉じる。
ミュリティオン
「……あれは、人の力ではない。」
アカシはわずかに身を傾け、挑発するように笑った。
アカシ
「だからこそ、私はここへ来た。
ハルトを止められるのは……イリアンドロスだけだ。」
アテロスの女王が鋭く問いかける。
アテロス
「なぜ助ける?
あなたの目は怨恨に満ちている。
彼の“敵”なのか?」
アカシは静かに、しかし不気味に微笑んだ。
アカシ
「敵ではない。
私は――彼の“影”だ。」
その言葉に、神殿全体が沈黙した。
ミュリティオン
「では問おう、旅人よ。
なぜ今、我らが動くべきなのだ?」
アカシは指を一本立てる。
アカシ
「ハルトは――結婚した。」
五人の王が瞬きした。
ピュルゴス
「それがどうした?」
アカシの笑みは、冷たい刃のようだった。
アカシ
「“家族”を持つ王は……
世界を征服する準備が整ったということだ。」
カメラは空へ舞い上がる。
白亜の柱は、天を指す刃のよう。
五つの都市が、炎の炬火を一斉に掲げる。
そして、古代から伝わる戦歌が響いた。
「黄金の太陽が昇る時、
イリアンドロスは――己が“物語”を抜き放つ。」
ハルトは東の空をじっと見つめていた。
すでに戦闘服に着替えたアウレリアが、そっとその手を取る。
アウレリア
「夫さま……
いま、何を感じているの?」
ハルトは静かに目を閉じた。
ハルト
「……古い“歌”だ。
戦を告げる約束の調べ。」
ゆっくりと目を開く。
黄金の光が、夜明けのように瞳に灯る。
ハルト
「イリアンドロス……
次に挑むのは――お前たちか。」




