「皇帝と黄金の太陽 ――禁じられた対話」
帝都は静まり返っていた。
それは穏やかな夜の静けさではない。
――大災厄の直前に訪れる、あの“息を呑むような沈黙”。
宮殿の松明は揺らめき、
衛兵たちは中央の大扉を見ることを避けた。
そこへ、
ハルト・アイザワが堂々と歩いてくる。
その背後には――
カオリ、アヤネ、アウレリア、そしてマグノリア。
黒き女剣士マルガリータは、鎖付きの銃剣を磨きながら微笑んでいた。
空気は重く、
重圧そのものだった。
◆ 太陽深紅の大広間――皇帝謁見の間
皇帝アウレリアノ五世は、玉座の前に立っていた。
怒りを隠す鋭い瞳。
しかし、その奥には――恐怖が潜んでいた。
すでに将軍たちは退室している。
“皇帝鏡”は報告した。
ハルトが三つの要塞を、兵一人失わず陥落させたと。
そして今――
大扉がゆっくり開いた。
カッ……カッ……
ハルトの足音が赤い大理石に響く。
アウレリアノは拳を握りしめた。
アウレリアノ
「……ついに来たか、ハルト・アイザワ。
秩序の敵め。
王を気取る下賤の者よ。」
ハルトは返事をしない。
ただ進み――
玉座まで数歩の距離で立ち止まった。
黄金の影が床を覆い、
蛇のように長く伸びる。
背後のアヤネは、皇帝を見つめながら微かに震えていた。
それは恐怖ではない。
――“記憶”の震え。
先に口を開いたのはハルトだった。
ハルト
「交渉に来たわけではない。
ただ一つだけ聞きたい。」
黄金の瞳が皇帝を射抜く。
ハルト
「アウレリアノ。
なぜこの戦争を仕掛けた?
何のために、この茶番を演じた?」
皇帝は乾いた笑いを漏らした。
アウレリアノ
「理由だと?
大陸が“敵”を欲していたからだ。
貴族どもは血を望む。
経済は戦争で膨らむ。
戦がなければ、帝国は崩壊する。
……それで満足か?」
ハルトの表情は変わらない。
アウレリアノは続ける。
声が、わずかに壊れ始めていた。
アウレリアノ
「父は国家財宝の半分を浪費した。
祖父は三国と借金まみれにした。
民は“変革”を望む。
戦を起こさなければ――
処刑されるのは私だ。
……自分の閣僚たちに。」
空気がさらに重く沈む。
カオリは眉を寄せ、
アヤネは目を伏せ、
アウレリアは槍を握り、
マグノリアは無言で銃剣を鳴らす。
ハルトはただ一言、冷たく言った。
ハルト
「つまり、自分の椅子を守るために、俺を“悪”にしたわけだ。」
アウレリアノ
「黙れ、小僧!
貴様も同じだ!
貴様も持ち得ぬ力を振るう化け物だ!
この世界に存在してはならぬ者だ!」
ハルトは静かに首を傾けた。
ハルト
「そう思うなら――何も理解していない。
運命から逃げ続けているのは、お前の方だ、アウレリアノ。」
皇帝は思わず一歩退いた。
アウレリアノ
「逃げてなどいない!」
ハルトが一歩進む。
室温が一瞬で下がる。
ハルト
「一つ教えてやる。
お前が探していた男、アカシだが――
俺が逃したんじゃない。」
アウレリアノ
「……何?」
ハルト
「奴は“裏切った”のだ。
お前の技術を奪い、
お前を見捨て、
そして今――お前を滅ぼす準備をしている。」
皇帝の顔から血の気が引いた。
アウレリアノ
「そ……そんなはずが……」
ハルトの声は静かだったが、判決のように重い。
ハルト
「だから、俺の邪魔をするな。
アカシを止められるのは――俺だけだ。」
アウレリアノは拳を震わせた。
敗北の記憶。
焦土となった砦。
自国の兵が、光一つで消滅した光景。
はじめて理解した。
――自分は“格”が違う相手と向き合っている。
アウレリアノ(震えながら)
「……お前は……何者だ?」
ハルトは微笑んだ。
ハルト
「英雄でも、王でも、神でもない。
ただ――決して退かない者だ。」
言葉が出ない皇帝。
ハルトは背を向けた。
ハルト
「最後の忠告だ。
俺の進路に立つな。
そうすれば、お前の民はまだ生き残れる。」
アウレリアノ
「待て!
この世界は私のものだ!
私は“太陽の子”なのだ!」
ハルトは振り返らずに言い放つ。
ハルト
「違う。」
ゆっくりと振り返り――
黄金の瞳が炎のように燃える。
ハルト
「太陽は――俺だ。
光の行き先を決めるのは、俺だ。」
そして、大広間を後にした。
残ったのは、
ひざまずき、震える皇帝だけだった。
皇帝は、そのまま玉座へ崩れ落ちた。
呼吸は震え、
喉は乾き、
手は冷たく強張っていた。
アウレリアノ(かすれた声で)
「……では……
私は……最初から……
負けていたというのか……?」
その言葉に呼応するように、
大広間の蝋燭が一つ、また一つと消えていく。
闇が、皇帝を包み込んだ。
――つづく――




