「裏切り者、出航す――アカシ、帝国より逃亡」
夜風が帝国の秘密港を荒々しく吹き抜けていた。
潮が鉄製の桟橋へ叩きつけられ、
その鈍い音は兵士たちの怒号と混じり合っていた。
松明が揺れ、
魔導警報が甲高く鳴り響く。
――混乱。
アカシは走っていた。
白い研究用コートは破れ、
魔術インクと汗で汚れ、
眼鏡はずり落ちそうになっている。
アカシ
「愚か者どもが……!
どうしてアヤネを奪われる!?
あれほど重要な“核安定化の要”だったのに!」
帝国の将校が必死に後ろをついてくる。
将校
「ア、アカシ様! ハルトが突然現れて……
護衛三名が声を上げる前に——!」
アカシはヒステリックに怒鳴った。
アカシ
「だから何だ!?
それで“唯一の科学者”を失っていい理由になるかッ!!」
将校は沈黙した。
アカシは震える手で額の汗をぬぐう。
アカシ
「アヤネ……裏切り者め。
知りすぎていた……。
あれは処分すべきだった――!」
しかし今や——
その判断が、自分の立場を崩壊させていた。
彼は秘密桟橋の前で立ち止まる。
そこに、影に紛れて停泊していたのは――
深い蒼色の船体に銀の文様を刻んだ帝国軍の高速艦。
⭐ 《アストライオス》――帝国の暁の戦船
通常の軍艦より速く、
緊急時の脱出用に作られた小型戦艦。
艦長がタラップを下ろし、駆け寄ってくる。
艦長
「アカシ様!
陛下より命令が届いております。
直ちに大陸を離脱せよ、と。」
アカシは弱々しく……しかし満足げに笑った。
アカシ
「陛下はまだ私を必要としている……
なんと慈悲深い。」
艦長の顔が凍りつく。
艦長
「……アカシ様。
もう一つ伝言があります。」
艦長は震える声で読み上げた。
艦長
『アヤネを奪われた以上、
我々はアカシを守れない。』
『逃がせ。
ハルトが必ず狙いに来る。』
アカシの笑みが消えた。
血の気が引いていく。
アカシ
「……な、何だと……?」
艦長は続ける。
艦長
「陛下は護衛を出さないそうです。
支援も、救援も……ありません。」
沈黙。
風が桟橋を打ち付け、
まるで嘲笑うように響いた。
アカシは拳を握りしめる。
アカシ
「……そうか。見捨てるか。
いいだろう。
帝国とは“必要なものだけ使い捨てる”場所だ……。」
彼は船へと向き直った。
その瞳には、焦りと毒のような執念が宿る。
アカシ
「だが……私は死なない。
ハルトには絶対に負けん。
世界を統べるのは……私だ。」
タラップへ駆け出した瞬間——
艦長が叫ぶ。
艦長
「アカシ様!!
魔導レーダーに“敵性反応”!!」
アカシは振り返り、
そして——見た。
空が、黄金色の光で裂けていた。
アカシ
「……嘘だろ……
こんな早く……!?」
遠くの雲の上。
金色の尾を引きながら飛ぶ二つの光。
アウレリアの飛行。
そして“太陽の聖域”の魔力反応。
アカシ
「――出航しろッ!!!
今すぐだァァァ!!」
艦長が全力で命じる。
魔導帆が開き、
エンジンが吠え、
船体が衝撃で浮かび上がる。
ドォォン!!
《アストライオス》は激しく桟橋を離れ、
白い飛沫と霧を巻き上げた。
アカシは甲板で転びながらも立ち上がり、
震える手で海を掴むように見つめる。
黄金の光は、ますます近い。
アカシ(絶叫)
「嫌だ……!
まだだ……!
まだ研究は終わってない……!!」
そして呪うように吐き捨てた。
アカシ
「覚えていろ……ハルト・アイザワ。
私は必ず……お前を破滅させる。」
船は防追結界を突破し、
濃い霧の向こうへ消えた。
その頃。
アヤネは地図の上に膝をつき、震えた。
アヤネ
「……逃げました。」
ハルトは目を閉じる。
カオリが槍を握りしめ、
マルガリータが鎖を鳴らし、
アウレリアが静かに翼を広げる。
そしてハルトが言った。
ハルト
「構わない。」
ゆっくりと目を開き、
黄金のオーラが部屋中に満ちる。
ハルト
「どこへ逃げようと……
必ず見つけ出す。」
アヤネは胸に手を当てる。
アヤネ
「アストライオスの魔力痕跡……追跡できます。
でも……内海を渡るには、もっと上位の船が必要です。」
ハルト
「なら――帝国の港へ向かう。」
彼は静かに宣言した。
ハルト
「《オフィオン》を奪う。」
カオリは笑い、
マルガリータは口笛を吹き、
アウレリアは翼を鳴らし、
アヤネは目を潤ませる。
ハルトは最後の命を下す。
ハルト
「準備しろ。」
「明日――海を征く。」
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