「太陽の間:魂の再調整」
部屋の床には黄金の輪が静かに輝いていた。
破壊の魔法ではない。
それは——王の魂が放つ“光”そのものだった。
春斗は彩音の正面に座っていた。
鎖も、枷もない。
あるのは椅子ひとつと、深い沈黙だけ。
香織とマルガリータは扉の左右に立ち、
干渉することなく見守っている。
アウレリアは人間の姿のまま腕を組み、
彩音の呼吸のひとつひとつまで観察していた。
彩音は震えていた。
彩音
「……わ、私に……何をするつもり……?」
春斗の表情は揺れない。
春斗
「聞く。」
彩音は意味がわからなかった。
春斗
「お前の魂を――分解する。
一つずつ。
隠れているものが、何ひとつ残らないように。」
彩音の背筋が凍る。
春斗が手を差し出した。
空気が鏡のように揺れ、黄金の光が映し出される。
春斗
「なぜ俺を“ゴミ”のように扱った?」
彩音は視線を落とした。
彩音
「……憎んでたわけじゃ……ない……」
春斗の瞳が細くなる。
春斗
「では、なぜだ。」
彩音は唇を噛みしめ、血が滲んだ。
彩音
「……怖かったから。」
香織は驚いて目を見開き、
マルガリータは小さく笑った。
わかっていた、と言うように。
春斗
「俺が? 何が怖かった?」
彩音の声はかすれていた。
彩音
「……だって……あなたは私よりずっと優秀だった……。」
春斗は黙って聞く。
彩音
「私は……ずっと理科が得意で……
周りから“頭がいい”って言われて……
でも、あなたは……」
拳を握りしめる。
彩音
「努力しなくても私を抜いた。
難しい問題もすぐ解いた。
みんな……あなたのことを話すようになった。」
声が震える。
彩音
「そんなの……耐えられないよ。
“普通”の人に負けるなんて……
私が……許せなかった……。」
アウレリアが瞬きをし、驚きを見せた。
香織は歯を食いしばり、何かを悟り始める。
彩音は身を小さくした。
彩音
「だから……意地悪した。
陰で悪口を言った。
してもいない罪を着せた。
全部……自分が上だって思い込むため……
だって……本当は……」
彼女は涙に濡れた瞳で春斗を見上げる。
彩音
「……絶対にあなたに勝てないって……
わかってたから……。」
春斗は止めなかった。
吐き出させた。
そして問う。
春斗
「……なぜ暁司についた?」
彩音は苦い微笑を浮かべた。
彩音
「……あいつは……私の“望む言葉”をくれた。」
——輝く眼鏡のレンズ。
——「君だけが、このクラスで本当に頭がいい。」
——蛇のような笑み。
彩音
「“新しい世界の頭脳は君だ”って。
“君には才能がある”って。
“春斗は危険だ”って……。」
春斗
「……信じたのか。」
彩音は胸を押さえた。
彩音
「信じたかったの。
その方が楽だったから……
あいつに利用されてるって認めるより。」
春斗が身を乗り出す。
春斗
「……では、花奈のことを話せ。」
彩音は一瞬で青ざめた。
香織は眉を寄せ、
アウレリアは目を伏せ、
マルガリータは笑みを止めた。
彩音は口を開こうとする——
だが言葉が出ない。
春斗が指で机を叩く。
暖かな黄金の輪が彩音を包む。
春斗
「傷つけるためじゃない。
嘘をつけないようにするためだ。」
彩音が泣き出した。
彩音
「……花奈は……
“あの能力”を持ってたから……。」
声は子どもの懺悔のようだった。
彩音
「“オーラ・レゾナンス”。
どんなエネルギーも安定させる……
核の動力に最適な……。」
彼女は目を閉じ、涙を落とす。
彩音
「もし暁司が花奈を選んだら……
死ぬって……わかってた……。」
春斗は何も言わない。
彩音
「でも私は……止めなかった。
止めたら……
私が代わりに選ばれるって……脅されたから。」
部屋の光が一瞬揺れる。
春斗の怒気が、背中に熱となって伝わる。
彩音は膝から崩れ落ちた。
彩音
「許してなんて言わない!
わかってるの!
私は……罪人なの……!
全部……わかってるのに……!」
春斗が歩み寄る。
彩音は処刑を待つ罪人のように震える。
春斗は指先で彼女の顎を上げさせ、
その瞳をのぞき込んだ。
春斗
「——ああ。
お前は、有罪だ。」
彩音は息を呑む。
春斗
「だが……
それでも“使える”。」
彩音の目が大きく開く。
春斗は彼女の頭に手を置いた。
支配の魔法ではない。
呪いでもない。
“意志”だった。
彩音の中に、
癒えなかった傷が光に触れるように震え始める。
春斗(低く響く声で)
「高橋彩音。」
彩音
「……はい……」
春斗
「今日から、お前の知性は恐怖に仕えない。」
春斗
「今日から、お前の才能は暁司に奪われない。」
春斗
「今日から、お前の罪は——前へ進むための力とする。」
彩音は声を上げずに泣いた。
春斗
「癒えろ。
そして……お前が生み出したものを、
自分の手で壊せ。」
彩音は頷くしかなかった。
春斗
「暁司の影ではなく……
“黄金の太陽”の頭脳として、立ち上がれ。」
彩音は完全に崩れ落ち、
春斗の胸にすがるように倒れ込んだ。
春斗は拒まなかった。
彩音
「……春斗……
お願い……
償わせて……」
春斗はそっと彼女の髪に触れる。
昨日では考えられないほどの優しさだった。
春斗
「なら、まずこれに答えろ。」
彩音は震えながら顔を上げる。
春斗
「——暁司はどこにいる。」
彩音は深く息を吸った。
そして、初めて——
恐怖ではなく、覚悟の声で答える。
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