「太陽の裁き/王国なき科学者」
天井から粉塵が落ち、
ハルトの魔力が残した熱で空気が震える。
静寂の中──
コツ…
コツ…
コツ…
足音の反響。
闇の奥からアヤネが現れた。
髪は乱れ、
白衣は破れ、
赤い瞳だけが異様に光っている。
その表情は──
あまりにも静か。
静かすぎた。
モモチは一歩後退する。
カイレンは歯を食いしばる。
ミヤコはハナのゴーレムを強く抱きしめる。
アヤネは冷たく微笑んだ。
アヤネ
「面白いわ、ハルト。
ベータ0を迷いなく破壊するなんて。
あなたがそこまでできるとは思わなかった。」
ハルトはゆっくり振り向く。
黄金のオーラはまだ静かに燃えている。
ハルト
「お前が……
ハナを“叫ばせた”張本人だな。」
アヤネは瞬きもしない。
アヤネ
「ええ。
そしてあなたは、救いに来る“英雄”そのもの。」
アヤネが指先を上げる。
ハルトの手には黄金の球が集まり始める──
しかしアヤネは攻撃しなかった。
もっと悪いことをした。
アヤネの指が空気に触れた瞬間──
研究所中のルーンが生き物のように再配置される。
モモチの瞳が見開かれる。
モモチ
「……信じられない。
インクも触媒もなしに……ルーンを書き換えた……?」
カイレンの背筋が凍る。
カイレン
「それ……魔術じゃない……
あれは……」
床に光の回路が走る。
アヤネは静かに微笑んだ。
アヤネ
「私の固有能力よ、ハルト。」
彼女は指を鳴らす。
研究所全体が形を変えた。
アヤネ
「Rewrite System
(リライト・システム)」
ハルトは目を細める。
ハルト
「……局所的に“現実”を書き換える能力、か。」
アヤネ
「正解。
私はゴーレムを作るだけじゃない。」
アヤネの声は冷たい。
アヤネ
「私はルーンを書き換え、
魔術を書き換え、
肉体を書き換え、
魂を書き換える。」
モモチがつぶやく。
モモチ
「……魔術師じゃない。
“魂のエンジニア”……。」
アヤネは誇らしげに微笑む。
アヤネ
「そんな私が興味を持つのは、あなたくらいよ、ハルト。」
空間がねじれる。
柱が動き、扉が消え、
岩が浮かび、
魔術が自動生成される。
アヤネ
「ここは私の支配領域。」
ハルトの位置に紫の光線が突き刺さるが──
彼は消えた。
背後に現れる。
ハルト
「……驚かない。」
アヤネ
「なら、空気を書き換えるわ。」
空気が固体ガラスのように固まる。
KATCHAN!
モモチが息を呑む。
モモチ
「閉じ込めた……!」
だがハルトは静かに息を吸う。
ハルト
「書き換えただけでは、俺を止められん。」
黄金の光が脈打つ。
空気の檻は音もなく溶け落ちた。
アヤネ
「素敵ね。
じゃあ……続けましょう。」
その瞬間──
壁が吹き飛び、
帝国の重装兵が突入してきた。
帝国将軍
「──アヤネ・タカハシ!!
貴様を拘束する!!」
アヤネの目がわずかに揺れる。
アヤネ
「……は?」
将軍は血判の文書を掲げる。
帝国将軍
「禁術の使用、虚偽報告、
帝国戦力の崩壊危機──
すべて貴様とアカシが原因だ!」
アヤネの顔から血の気が引く。
アヤネ
「……アカシ……
あなた……私を売ったの?」
帝国将軍
「この女を捕らえろ!
逃がすな!!」
魔法の鎖、封印札、網がアヤネへ向かって飛ぶ。
アヤネは後ずさる。
恐怖が、初めてその瞳に宿る。
ハルトが静かに腕を組む。
ハルト
「さっきまでは随分と余裕だったな、アヤネ。」
アヤネがハルトに縋るような視線を向ける。
アヤネ
「……ハルト……
お願い……私を帝国に渡さないで……」
ハルトが一歩、彼女へと近づく。
黄金の光が揺れる。
一瞬──
アヤネの顔に安堵が浮かぶ。
だがハルトの笑みは冷たかった。
ハルト
「引き渡しには来ていない。」
アヤネ
「……じゃあ……!」
ハルト
「裁きに来た。」
帝国兵が固まる。
空気が焼ける。
ハルトが手を上げる。
ハルト
「ハナの魂を痛めつけたのは……」
黄金の球が膨れあがる。
ハルト
「お前だ。」
アヤネの顔から血の気が消える。
アヤネ
「待って!
私はまだ役に立つ!
まだ──!」
ハルトが拳を握る。
ハルト
「これが……お前の判決だ。」
帝国軍の兵士たちの列の中に──
もう一つの影が現れた。
赤い鎧をまとった人物。
よく知る威圧感。
帝国皇帝。
皇帝
「ハルト……
その女はお前のものではない。
彼女は……我が国の所有物だ。」
ハルトは微笑んだ。
冷たく。
危険に満ちて。
圧倒的で。
ハルト
「いや。
今日から……彼女は俺の囚人だ。」
――つづく――




