追い詰められた薔薇と、影に仕える者
夜がそっと降りるころ、ハルト帝国は静かな光に包まれていた。
街では人々が今日も豊かな日々に感謝し、笑い合い、歌い、穏やかな灯りをともしていた。
──食べ物は十分、労働時間は短く、教育は無償。
それは、皇帝ハルトが築いた“新しい帝国の姿”だった。
だが、**宮殿**では、静かに物語が動いていた。
◆ 帝王の眼に映る影
ハルトは《黄金の鏡》を介して、帝国の現状を見つめていた。
ハルト(心の声)
「……民が笑っている。ならば、道は間違っていない。」
彼の隣には、カオリとアウレリア。
その後方にはモモチの指名で諜報任務に選ばれた、カイレン、メイカ、ジノの三人が控えていた。
その時だった。
鏡の端がかすかに揺れ、見知らぬ光景が映り始めた。
それは──敵国・レヴィウム帝国の豪奢な広間。
そこで、ある貴族一家が毒を含んだ声で密談をしていた。
◆ 禁じられた会話
ハヴェロン・ドレイクロフト卿──銀髭の男。
その妻ミリアンヌ。
そして彼らの娘、エミリス・ドレイクロフト。
彼女はハルトの元へ“外交官”として送られた少女。
しかし今、カーテンの影に隠れながら、両親の裏切りを耳にして震えていた。
ハヴェロン
「……で、あの使者は何と言っていた? 早く結果を寄越せ。」
ミリアンヌ
「アウレリアン陛下は苛立っておられますわ。
エミリスが征服王を弱らせられないのなら……消すしかない、と。」
エミリス(心の声)
「……わ、私を? 失敗したら……殺す……?」
ミリアンヌ
「言うことを聞かない娘は……もう道具として価値がないのよ。」
ハヴェロン
「帝国は、役立たずを養う余裕などない。」
──鏡が暗転する。
ハルトは眉を寄せた。
エミリスは“外交官”ではなく、ただの捨て駒だった。
その時、ひとりの少女が前へ進んだ。
◆ 彼女に手を伸ばした者
エリーズ・ダルクレンヌ。
ハルトに召喚された高貴なる剣士。
エリーズ
「陛下……あの娘は悪ではありません。ただ……間違った家に生まれただけです。」
カオリ(鋭い視線)
「……助けに行くつもり?」
エリーズ
「……ええ。私ひとりで、話したい。」
ハルトは静かに頷いた。
◆ 召喚:影の侍女
エリーズを送り出す前に、ハルトは右手を掲げる。
「──召喚ガチャ:サーヴァント級/ティア・ガンマ
《影薔薇のルナリア》」
紫の光が弾け、舞い散る花弁の中から、ひとりの女性が跪いて現れた。
黒の侍女服と軽装甲。
赤い瞳。
息づく刃のような静寂を纏う女──
ルナリア・ヴェルモント。
ルナリア
「我が王よ。どのような命でも。」
ハルト
「エリーズについて行け。
そして──エミリス・ドレイクロフトを守れ。
彼女を殺そうとしているのは……彼女自身の家族だ。」
ルナリアは一切の迷いなく頭を垂れた。
◆ 月下の邂逅
庭園で、エミリスはひとり震えていた。
誰にも頼れず、息を潜めるように歩く。
その横に、音もなくルナリアが現れた。
ルナリア
「お一人では危険です、エミリス様。」
エミリス
「だ、誰……? 何の用……?」
ルナリア
「あなたをお守りするために来ました。そして──伝えるべきことがあります。」
エミリスは立ち止まる。
ルナリア
「……ご両親は、あなたを“処分”する決断を下しました。」
エミリス
「……う、そ……。どうして……? 私は娘なのに……!」
ルナリア
「彼らにとって“娘”ではありません。
従わぬ道具──ただそれだけです。」
エミリスの頬を、涙がつう、と伝う。
その時、薔薇の影からエリーズが現れた。
エリーズ
「……来て。話したいことがある。」
震えるエミリスの手を、エリーズはそっと包んだ。
エリーズ
「ハルト陛下はすべてをご存じよ。
そして──あなた自身が未来を選ぶことを望んでおられる。」
◆ 決断
玉座の間。
ハルト
「聞いた通りだ。
もう“家族”の元へ戻れば、死しか待っていない。」
エミリス
「…………」
ハルトは指を二本立てる。
「道は二つ。
ひとつ──従順に戻り、殺される道。
もうひとつ──ここに残り、私の庇護のもと……生きる道。」
エミリスの瞳が揺れ──
エミリス
「……生きたい。
私……自分で選びたい。」
ハルト
「ならば、生きよ。」
その言葉に従い、ルナリアはエミリスの前で跪いた。
ルナリア
「本日より、私はあなたの影。
命尽きるまで、お守りいたします。」
エリーズは安堵の息を漏らし、そっとエミリスを抱き寄せる。
ハルトは歩み寄り、エミリスの頬に触れた。
エミリス
「っ……!」
頬を染めるエミリス。
直後──宮殿中の女性陣が一斉に眉をひそめた。
カオリ
「……また増えたわね。」
アウレリア
「ハルト、あなた、楽しんでいるでしょう?」
ハルトは微笑んだだけで、何も答えなかった。
その夜――
新しい部屋で眠ろうとしていたエミリスは、微かな気配に気づいて目を閉じたまま息を潜めた。
ルナリアが静かに身をかがめ、耳元で囁く。
ルナリア
「エミリス様……。
ご両親は刺客を放ちました。
夜明け前に到着します。」
エミリスの瞳が恐怖に揺れ、ぱちりと開く。
ルナリア
「……ですが、ご安心を。」
「今のあなたには──守ってくれる“家”があります。」
その頃、宮殿の最上階では──
黄金の太陽がハルトの瞳の中で静かに燃えていた。
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