血と誓い
育てるのではなく──
“形にする”だけの親もいる。
そして、その作品が反抗すれば…壊す。
怪物は敵から来るとは限らない。
同じ食卓で微笑み、
“娘”と呼ぶ者もいる。
封蝋のついた招待状
その手紙は、足音もなく届いた。
使用人も運ばず、予告もない。
ただそこに──不吉な影のように現れた。
差出人:ヴィルモン家
場所:ヴェルグラッセ上区・私邸
件名:
「家族の用件。出席は義務。
不服従は報告される。」
エミリーズの背筋が冷たく震えた。
隣のリゼットは、獣のように気配を読み取って身構える。
リゼット:
「行きますか?」
エミリーズは、数日前に見つけた省庁のピンを指先でなぞり、
迷いのない瞳を向けた。
エミリーズ:
「もう、巣の中よ。」
刃の食卓
食堂は完璧だった。
あまりにも、完璧すぎるほどに。
エミリーズの両親──
カルヴィエ・ヴィルモン卿と サブリーヌ・ヴィルモン夫人が
まるで何事もなかったかのように席についていた。
冷徹。
優雅。
そして完全に、壊れた二人。
カルヴィエ(声を張らずに):
「街へ戻ってきたと思えば……
裏切りか。」
サブリーヌ(エミリーズを見ず、紅茶を口にしながら):
「自分で考える娘ほど恥はないわ。」
エミリーズは、テーブルの下で拳を握りしめた。
エミリーズ:
「帝国の外には……
恐怖で縛られるのではなく、
“信じるもののために”戦う人たちがいる。」
サブリーヌ(微笑むが、目は凍っている):
「それがあなたを救うとでも?」
身をかがめ、蛇が獲物を値踏みするように囁く。
「あなたはヴィルモンよ。
私たちの“所有物”。
役に立たないなら──
欠陥品として処分するだけ。」
意志を折る企み
黒いワインが静かに置かれた。
エミリーズはグラスを手に取り、
香りを嗅いだ瞬間、理解した。
──精神操作の魔術。
──意志を削る穏やかな薬。
カルヴィエ:
「殺しはしない。
お前には使い道がある。
殉教者の仮面をかぶった操り人形としてな。」
そこでエミリーズは、
両親が決して予想しなかったことをした。
彼らを真正面から見据え──
微笑んだ。
エミリーズ:
「“暁の王国”で学んだこと、教えてあげる。」
「私はもう──
自由になるのに、
“許可”なんて必要ない。」
グラスを落とす。
鋭い音が弾ける。
そして彼女は指輪に仕込んだ封印を解放した。
炎と逃走
天井が轟音とともに砕け散った。
リゼットが隕石のように降り立ち、
拘束結界で部屋を封じる。
護衛たちは次々と倒れ、
咳き込み、動けなくなった。
ガスは命を奪わないが、戦闘不能には十分だ。
サブリーヌは濃い影を呼び出す。
冷酷な性格そのままの鋭い闇魔法。
しかし、エミリーズは一歩も引かない。
手に宿る光が輝く。
カオリ直伝の技──
「意志の逆刃」
サブリーヌの魔法は音もなく砕け散った。
エミリーズ(憎しみではなく、断絶の瞳で):
「あなたたちを殺す必要なんてない。」
「あなたたちの世界は──
自分たちで滅びに向かっている。」
リゼットが窓に隠された秘密の通路を開く。
二人は闇へと走り抜けた。
ワインも、食卓も、鎖も──
すべて置き去りにして。
罠は対処されるだろう(前章で見たように)。
だが今なら分かるはずだ。
それは偶然ではなかった。
リゼットだったのだ。




