「二つの声、一つの影」
時に、最も危険なのは剣ではない。
――鎧のない対話である。
夜の庭園
澄み切った夜空の下、
ここは「沈黙の暁の庭園」。
宮殿の中でも立ち入りが制限された区域。
魔力を宿す桜が、夜にも関わらず静かに花を咲かせるその下で、
ハルトは一人、星図を見つめていた。
女の声:
――間違った星を見つめていると…人は迷子になるって言うわね。
ハルトは振り向かない。
ハルト:
――でも、教わった道を忘れれば…新しい道も見える。
エミリスが現れる。
護衛も仮面もない。
あるのは、少し焦げたドレスと、もつれた魂だけ。
言葉にならない問い
エミリス:
――あなた…私が誰か、知っているの?
ハルト(穏やかに):
――知ってる。
――なぜここに来たかも?
――それも、分かってる。
――それなら…なぜ私を追い出さないの?
ハルト:
――君がしたことは、君の親たちなら絶対にしないことだった。
見返りもない人を――守った。
武器なき火花
エミリス:
――それが罠だったら?演技だったら?
ハルト(初めて彼女を見て):
――なら、君は帝国で最高の女優だ。
でも、あの涙は本物だった。
そして俳優は…子供を救って血を流したりはしない。
沈黙。
風が桜の花を揺らす。
エミリス(声を落として):
――私はこんな役、望んでなかった。
誰にも聞かれず、
ただ“駒”としてここに送られたの。
ハルト:
――俺も、王になりたかったわけじゃない。
でも、盤上から降りれば…
踏みつけられるだけだ。
じゃあ、これからは?
エミリス:
――私はもう帰れない。
あの国の味方でも、あなたの味方でもない。
ハルト:
――なら、まだ選んでいない者でいればいい。
――ここでは、自分で考えるための“時間”が与えられる。
エミリスは黙ったまま立ち尽くす。
ハルト(彼女に歩み寄りながら):
――俺は、従ってくれとは言わない。
ただ…俺が信じるに値するかを考えている間、
背中から剣を突き立てないでくれ。
その夜、エミリスは自室へ戻った。
日記は開かない。
ただ、母からもらったペンダントに指を添え――
そっと、引き出しにしまった。
初めて、それを胸元から離したのだ。
エミリス(心の声):
「彼を信じられるかは…わからない。」
「でも、力を望まなかったのに――
それを“壊さないため”に使う男が、何を築いたのか……見てみたいと思った。」




