大理石の間にて
―リヴィウム帝国・首都オーレルドムスにて―
その頃、遥か東の国――
ハルトが「暁の鏡」を通じて自らの王国を見つめていた頃、
帝国の中心では別の対話が、静かに火を灯していた。
登場人物
ケイラン・ヴィルモン公爵
帝国に仕える名門貴族。ヴィルモン家の家長であり、皇帝の側近。政治戦略家。
ミラルダ・ヴィルモン婦人
公爵夫人。宮廷内の影響力を築く知恵深き女性。血統の純潔と名誉を重んじる。
エミリス・ヴィルモン嬢(17歳)
貴族の令嬢。聡明で独立した思想を持つ、好奇心と反骨の魂を抱く娘。
大理石の間 – 宮殿内謁見室
白い大理石の床と、高くそびえる円柱。
窓の向こうには帝都の空が広がる。
三人は静かに座っていた。
女中が香辛料入りの黒茶を丁寧に注いでいる。
ケイラン公爵(報告書を閉じながら):
「ノルヴェル王、剣を交えることなく退位。
……そして今、“ハルト・アイザワ”なる者が――
民、魔術師、そして物語そのものを手に入れている。」
ミラルダ夫人(眉を上げ):
「物語では戦に勝てません。
貴族の誇りは、演説一つで折れたりはしませんわ。」
エミリス(窓の外を見つめながら):
「でも、民が私たちを信じなくなったら……
どんな“家”でも、基盤がなければ崩れます。」
室内に静寂が落ちる。
公爵がゆっくりと彼女を見据える。
ケイラン:
「まさか、居酒屋の噂話に感化されているのか?」
エミリス(ゆっくりと振り返り):
「いいえ。
“真実”に感化されているの。」
「それは――
帝国の外で、“黄金の太陽”が私たちの壁を超えて、輝き始めているという事実。」
家族の緊張
ミラルダ夫人(冷たく):
「そんな物言い、外では控えなさい。
最近では“帝国詩”よりも貿易協定を読む方が好きだと噂されているわ。」
エミリス:
「香水まみれの舞踏会より、
本当のことを学べる書物の方が、よほど価値があると思います。」
公爵は深いため息をつき、ゆっくりと杯を取った。
ケイラン:
「帝国が滅びるとしたら、それは外敵ではなく……内から崩れる時だ。
ハルトなど、“ただの火種”にすぎん。」
エミリス:
「でも歴史書に名が残るのは――
その“火種”を灯した者であって、
消しにかかった者ではありません。」
そして、大理石の静けさの中に、
新たな風が吹き始めていた。
まだ誰もそれを「革命」とは呼ばなかったが――
帝国の若き目は、すでに壁の外を見ていた。




