夜明けは退かず――学ぶだけだ
戦いに敗れることは、戦争に敗れることではない。
だが……一度も負けたことがなかった者にとって、敗北とは何だろうか?
時に、最も痛いのは敵の一撃ではない。
それは、自らの中に響く声――
「もし今回は……お前が“足りない”のだとしたら?」
⋯⋯⋯⋯
指揮幕の中は、静寂に包まれていた。
地図は片づけられ、ろうそくも消されている。
ハルトは独りだった。
召喚された者たちは外で待っていた。
クララは震える手で報告書を握りしめ、
カオリは沈黙の中で剣を研いでいた。
リースが言ったのは、ただ一言。
「今回は……向こうのほうが上だった」
ハルトは炉の前に腰を下ろす。
瞑想していたわけではない。
策を練っていたわけでもない。
ただ――
思い返していた。
セレスティーヌの槍。
破られた結界。
守れなかった負傷兵。
そして、敵の自信に満ちた顔。
「今まで、敗れたことがなかった。
撤退を命じたことも……なかった」
そして、胸に初めて感じた。
恐怖ではない。
怒りでもない。
――苛立ち。
――沈黙。
――そして、疑念。
⋯⋯⋯⋯
オーレリアが無言で入ってきた。
最初は何も言わず、隣に腰を下ろす。人間の姿で。
オーレリア(低く)
「あなたのせいじゃない。
彼女は……私たちの動きを、見抜いていただけ」
ハルト(火を見つめたまま)
「いや、違う。
彼女が勝てたのは、予測したからじゃない。
……俺が“負けない”と信じきっていたからだ」
沈黙。
ハルト
「それが――慢心だったんだ」
⋯⋯⋯⋯
そこに、クララ、イリス、カオリ、リースが入ってくる。
それぞれが、何かを手にして。
クララは新たな報告書。
イリスは魔法陣の動きの分析。
カオリは布に包まれた剣。
そしてリースは――地形図を。
リース(真っ直ぐな眼差しで)
「なら問題は、負けたかどうかじゃない。
これから……どう動くかだ」
ハルトは皆を見渡し、
ついに立ち上がった。
ハルト
「――これからは、立て直す。
誇りではなく、精密さで。
夜明けは……影に消えたりしない。
ただ――進路を変えるだけだ」
その後の夜、ハルトは眠らなかった。
地図を見直し、
誤りを修正し、
カオリと共に剣を交え、
イリスと共に古の戦術を学び、
リースと共に、新たなマナの槍を鍛え上げた。
そして思考の奥――
浮かぶのは、セレスティーヌ。
敵としてではない。
――警鐘として。
「俺に血を流させた者には、敬意を払う。
だが……二度目の勝利は、許さない。」




