炎、そして霜に抗うもの
火は常に“破壊”の象徴だった。
だが同時に、“再生”の証でもある。
氷は“死”の象徴。
だがまた、“真実を保存する力”でもある。
竜の血が、アルビオルの無敗の理性と出会ったとき——
それは勝利ではなく、
均衡。
そして、危機の兆し。
外交会談の後も、緊張は解けなかった。
寺院の中庭で、アウレリアは人の姿のまま、
訓練場を視察するセレスティーヌをじっと見つめていた。
アウレリア(抑えた声で)
「そんな目でうちの兵を見ないで。
……もう埋葬の段取りでもしてるような目ね」
セレスティーヌ(背を向けたまま)
「敵とは見ていない。まだ、ね。
……でも、“倒すとしたら、どれほど手間か”は見てるわ」
その場の空気が弓のように張り詰める。
アウレリア(一歩踏み出す)
「じゃあ、私も?
私のことも、“値踏み”してる?」
セレスティーヌ(ゆっくり振り返り)
「あなたは……
“待っていた相手”よ」
言葉はそれだけだった。
気づけば二人は、聖域の中心に立っていた。
空は灰色に曇り、風さえ息を潜める。
寺院の縁で見守るハルトは、
言葉ひとつ発せず、手を上げた。
——α級結界が発動。
魔力の嵐を封じる透明な壁が場を包む。
カオリは奥歯を噛みしめ、
アイリスはまばたき一つしなかった。
これは思想のぶつかり合いではない。
象徴の衝突だった。
アウレリアは即座に、自らの竜の力を解放する。
「竜血武芸——“紅蓮皇女”」
紅の鱗の鎧が体を包み、
その翼は一振りで大地を震わせる。
一方セレスティーヌは、
無駄のない動きで銀槍を抜き放ち、
全身を冷気のオーラで覆う。
「無敗形態——“氷の審判”」
そして、激突。
— アウレリアの爪は、純粋な火焔をまとい空を切り裂く。
— セレスティーヌはその一撃一撃を影のように躱し、隙に正確な突きを返す。
— 大地は揺れ、
— 火と氷がぶつかるたび、視界を奪う熱蒸気が噴き上がる。
— 召喚された者たちは、吹き荒れる魔力の渦から身を守るのに精一杯だった。
それでも——どちらも、一歩も譲らなかった。
7分間。永遠のような戦いの末、
二人は同時に一歩、後退する。
アウレリアは息を荒げながらも、瞳に燃えるような笑みを湛え、
セレスティーヌの頬には、紅い傷が一筋走っていた。
— それは、20戦以上の戦歴の中で初めての“傷”。
セレスティーヌ(指で血を拭いながら)
「……興味深いわね」
アウレリア(荒く息を吐き)
「それだけ?」
セレスティーヌ
「違うわ。
もう一つ——言っておく」
「ようやく、疑いが生まれた」
——そして、戦いは止まった。
ハルトが結界を解除し、
二人は背を向ける。
憎しみも、笑顔もない。
あるのはただ——“次は止まらない”という無言の約束。
アルビオルの街に、噂が広がった——
「女神が……傷を負った。」
「暁は……消えない。」
そして帝国の深奥——
玉座さえも越える“何か”が、静かに呟いた。
「……ならば、禁じられし記録庫を開く時だな。」




