女神が歩むとき
帝国は泣かない。
帝国は——報復する。
そしてアルビオルでは、外交が破綻したとき、
女神を召喚する。
黒大理石の広間。
蝋燭はすべて消され、
帝国評議会の影だけが残っていた。
ハルトの裁きによって辱めを受けたロード・ウェンズリーは、
白と金の玉座の前に跪いていた。
ヴィクトリア・エルズベス二世顧問官は、面倒げに目を閉じる。
ヴィクトリア
「……血も流さずに死んだ?
しかも“民衆”の前で?」
「それは“歴史”だ。そして、お前は“悪役”だったのよ」
やせた顔の男が、無言で手を上げた。
セドリック評議員。
セドリック
「では……我らの“答え”を呼ぼう」
「三つの王国を一兵も失わず制圧した乙女を——南へと送るのだ」
◇
北の戦塔——
一人の女が静かに剣技を繰り返していた。
純白の軍服。
金の月桂樹が刺繍されたマント。
その瞳は、聖水で冷やされた鋼のように澄んでいた。
名:セレスティーヌ・ルース・エインズワース
帝国称号:勝利の女神
彼女は軍も、竜も、国家すら屈服させてきた。
しかも——一度も“笑み”を失わずに。
その訓練中、若き士官候補が慌ただしく現れる。
士官候補
「将軍……“黒陽命令”が発令されました!」
セレスティーヌ(剣の動きを止めず)
「……とうとう来たか。
“太陽”を屈服させろと?」
士官候補
「標的は……藍沢ハルトです」
剣が静かに止まる。
セレスティーヌ(低く)
「……ハルト。記憶で裁く王?」
士官候補
「はい、将軍」
一瞬の沈黙。
セレスティーヌ(微笑みながら)
「ふふ。面白いわね。
もしかすると初めて……**“勝ちたくない”**と思うかも」
◇
その頃、ハルトの野営地では——
アイリスとリースが新たな報告を受け取っていた。
アイリス
「アルビオルからの部隊が動いてる。
早く、静かに……騒がず、だが確実に」
リース(報告の署名を読みながら)
「来るのは彼女だ。“勝利の女神”」
カオリの手から、茶碗が滑り落ちる。
カオリ(緊張した声で)
「ルース・エインズワース……本当に来るの……?」
◇
その夜——
ハルトのもとに、一人の使者が手紙を届ける。
魔力も、脅しも、何もない。
ただ、一行の言葉。
「殺しには来ない。正しに来る。
月の下で会おう、“黎明の王”。
——セレスティーヌ・ルース」
聖域の兵たちは、
初めて“自由な軍”として訓練を始めていた。
そして、丘の上では——
太陽と月が、まさに交わろうとしていた。
女神は歩む。
そして、火は……その時を待っている。
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