血を流さぬ裁き——けれど魂を砕いた審判
戦とは、鋼と炎だけで語られるものではない。
ときに最も恐ろしい武器は、
自分が生んだ「痛みの記憶」だ。
そしてもし、加害者がその記憶を忘れるほど傲慢ならば——
真実そのものが彼を喰らえばいい。
聖域の大神殿。
解放された民と、アルビオル帝国から派遣された代表団が見守る中、
ヴォルティガン将軍の裁きが始まった。
帝国の使節たちは、豪奢な衣と、魔力を宿す杖、
そして空気を濁らせるほどの高慢さを身にまとっていた。
ロード・ウェンズリー(嘲り混じりの口調で)
「アルビオル帝国は、ヴォルティガン将軍の即時解放を要求する」
「彼への魔力の行使、拘束は重大な外交違反だ」
「諸君には、正当な裁く権限など——」
ハルト(穏やかに、だが遮るように)
「だが、“彼”には、民を殺す権利があったと?」
——沈黙。
ハルト(民を見渡しながら)
「皆に問う。
俺はこの男を帝国に返すべきか?
それとも、“真実”に語らせるべきか?」
一つの咆哮が、広場を揺らした。
「真実を! 語らせろ!」
ハルトが手を上げると、
空に黄金の魔法陣が浮かび上がる。
魔法の鎖に縛られたヴォルティガンが、
その中央に浮かび上がった。
カオリ、マグノリア、クララ、アイリス、モモチ
彼らは四方を囲み、静かに、だが揺るぎなく立つ。
アイリス(冷たく)
「お前は笑顔を奪った」
クララ(傷を抱えた声で)
「お前は歌を封じた」
カオリ(静かな殺意で)
「お前は夢を断ち切った」
マグノリア(怒りを込めて)
「……なら今度は、“全部まとめて聞け”。この身でな!」
ハルト(低く、重い声で)
「——《痛みの共鳴裁判》」
「感覚上書き魔法:《民の判決》」
そして、
——ヴォルティガンの悲鳴が始まった。
刃でも炎でもない。
だが彼の魂を裂いたのは、記憶だった。
・飢えて死ぬ子どもたち。
・兵に汚される女たち。
・逆らったというだけで処刑された老人。
・引き裂かれる家族。
・壊される希望。
そのすべてを——彼自身が、味わうことになる。
「見た」だけではない。
“体験した”のだ。
絶叫。
嗚咽。
懇願。
許しを乞う声。
そして、彼の体は——崩れ落ちた。
一滴の血も流れず、
傷ひとつないまま、
ヴォルティガンは死んでいた。
その顔には、ただ……
絶望と恐怖の仮面だけが残っていた。
沈黙。
使節団は青ざめ、言葉を失っていた。
ロード・ウェンズリー(震えながら)
「な、なんだこれは……こんな魔法は……!」
「こ、これは蛮行だ! 王国間条約違反だ! これは戦争行為に——!」
ハルト(瞬きもせず、静かに)
「なら、こう記録しておけ」
「“罪を否定した者は、その痛みを自ら味わう”と」
「これが、黎明の新たな“正義”だ」
カオリ(剣を抜き、歩み寄りながら)
「……次に感じたいのは、お前か?」
使節団は、沈黙のまま数歩後退した。
ハルトは広場を見渡し、声を高める。
ハルト
「私たちは“復讐”のために殺しはしない。
だが、“痛み”をなかったことにはしない」
「この裁きは、憎しみのためじゃない」
「記憶のためだ」
「ここで何が起きたかを、世界が“忘れぬ”ために」
「——そして、二度と繰り返させないために」
◇
裁きの後、
ハルトは神殿の泉のほとりにいた。
肩を落とし、静かに座っていた。
アイリスとクララが、そばに来た。
アイリス
「あなたの魔法……
大丈夫なの?」
ハルト(疲れ切った声で)
「……少しだけだけど、
俺も“感じた”」
「すべての痛みを完全に中継するには、
自分も触れなきゃいけないんだ」
クララは言葉を挟まず、
そっと彼に近づき、
静かに、優しくキスをした。
クララ(涙をにじませながら)
「ならその痛みも……一緒に背負わせて」
アルビオル帝国の王宮で、
ひそやかに、しかし確実に——その報せは広がった。
「……将軍は触れられずに死んだらしい」
「民が“正義”と叫んだ……そして誰かが、それを聞いた」
「……あの王、藍沢ハルト。奴は“ただの王”じゃない」
高き玉座の裏、
闇の会議室。
帝国の最奥で、誰かが囁く。
「黄金の太陽は——
燃え尽きる前に、消さねばならぬ」
この章…あなたの心を揺さぶりましたか?
震えるほどの衝撃が、そこにありましたか?
――もし、ヴォルティガンの裁きが息を呑むほどの瞬間だったなら、
ぜひ“評価”を。
そして、こう思ったなら:
「真の正義とは、復讐ではなく——“真実を刃に変えること”だ」
……この物語を、お気に入りに。
その信念ごと、共に歩んでいけるように。




