不死鳥の契約
慈悲は言葉で証明されるものではない。
正義は旗で測れるものではない。
スーリア——眠れる太陽の地において、
魂は“炎”によって試される。
第一章:招待…あるいは警告
奴隷化された聖域への訪問の翌朝、
ハルトのもとに封蝋された一通の手紙が届いた。
赤い蝋に刻まれていたのは——
涙から舞い上がる不死鳥の紋。
カオリが朗読する:
「この地を解き放ちたいと願う者よ——
まず、己の心を解き放て」
「不死鳥は力には応えない。
ただ…“真実”にのみ、応える」
アイリスは眉をひそめ、
リースは封印をスキャンしようとするが、装置は触れた瞬間に焼き切れた。
ハルト(穏やかに)
「俺が一人で行く」
クララ
「えっ!? 罠かもしれないのにっ!」
ハルト(彼女をまっすぐ見つめながら)
「ならば、燃えるのは…俺の魂だ。
君たちのじゃない」
第二章:不死鳥の祭壇
ハルトは《堕ちた太陽の神殿》をくぐる。
そこに兵はおらず、
あるのはただ——
残響。
詠唱。
そして、炎。
祭壇は石で囲まれ、青い炭火が静かに燃えていた。
その中心に、小さな浮遊する炎。
それは、生きていた。
マハラジャ・アヤディットが待っていた。
周囲には長老と僧たちが並ぶ。
アヤディット
「ここは、古の契約を結ぶ場所。
だが、汝に契約はない。
ここで裁くのは…“炎”そのものだ」
ハルト(一切の迷いなく)
「受け入れる」
アヤディット(驚いたように)
「何が起こるかも問わずにか?」
ハルト
「貴国の民の苦しみは、すでに聞いた。
これより酷いものなど…ない」
ハルトは、炎の前に座った。
その火は焼かない。
目の奥へ、記憶の深くへ、魂の核へと入り込む。
声が、虚空から響いた。
「汝は正義か…それとも復讐か?」
「誰のために解放する? 彼らのためか、自分のためか?」
「汝の“黎明”のために、何人が死ぬ?」
浮かぶ幻影:
— 壊れた王座。
— クララの涙。
— ハルトを見送るヴァレンハルトの瞳。
— 星のない夜空の下で交わした、アイリスとの口づけ。
ハルトは静かに目を閉じ、言葉を紡ぐ。
ハルト
「俺は…聖人じゃない。
怒りも、誇りも、恐れもある」
「だが、俺には“選ぶ意志”がある」
「炎が清らかさを求めるなら——
拒まれよう」
「だが、“他人のために燃え尽きる者”を求めるなら——
俺は、燃える」
沈黙。
…そして。
青い炎が、金色に変わった。
炎の中から現れたのは、
翼に包まれた円の紋章。
祭壇が震え、
僧たちがひざまずく。
炎は彼を焼かなかった。
彼を——認めた。
アヤディット(震える声で)
「…不可能が、起こった」
「不死鳥は汝を認めた、藍沢ハルト。
王としてではない。
“再生の担い手”として」
アヤディットは黒い石の護符に金の炎を宿し、ハルトへ手渡す。
アヤディット
「これを持ってゆけ。
スーリアは、汝の大義に加わる。
臣下としてではなく…
“再誕の守護者”として」
ハルトは両手で護符を受け取った。
ハルト
「ならば、共に…生まれ変わろう」
第三章:帰還と約束
その夜、ハルトが部屋へ戻ると、
アイリスとクララは眠れぬまま、彼を待っていた。
無事な姿、
その背に金の炎が浮かぶのを見て——
二人は迷わず駆け寄った。
クララ(泣きながら)
「…炎に呑まれるって思ってた…!」
アイリス(真剣な眼差しで)
「そこで…何を見たの?」
ハルト(見つめ返しながら)
「自分の決断が背負う代償。
…それでも、進むと決めた」
クララは彼を強く抱きしめた。
アイリスも、黙って胸に額を預ける。
ハルト(小さく呟くように)
「…ありがとう。
待っていてくれて」
そして彼は、二人に口づけをした。
今度は頬ではなく——
神の審判を超えた者の、
魂からの誓いとして。
堕ちた太陽の神殿の頂にて、
不死鳥は再び眠りについた。
だが祭壇の中央には、
新たな銘がゆっくりと燃えていた。
「太陽が堕ちる場所にて——
不死鳥は選び、
そして世界は変わる」




