民の声――そして王の影
――人々が、語り始めた。
もう囁きではなかった。
それは叫びであり、歌であり、ビラであり、
壊れた樽の上から響く即興の演説だった。
その潮流の先頭に立つのは――彼。
痩せた体に、肩まで伸びた黒髪。
丸い眼鏡と、燃え盛るような瞳を持つ青年。
アレン・マルヴェル。
筆を武器とする街の扇動者。
貴族でも兵士でもない。
ただの――紙とインクと、剣のように鋭い言葉を持つ男。
アレン(叫ぶ)
「ノーヴェイルよ! そして世界よ、聞け!
新たな太陽が昇ったのだ!
圧政を焼き払い、偽りの神を挑む王が現れたのだ!」
民衆が沸いた。
子どもたち、年老いた者、疲れ果てた兵士、飢えた召使いたちが手を挙げる。
民衆
「新たな暁の王に栄光あれ!
堕ちた太陽、ハルト万歳!」
アレンは掲げる。
描かれたばかりの黄金の太陽の印がついたビラ。
アレン
「この光のもとでは、
貴族も平民もない!
聖なる血も、定められた運命もない!
あるのはただ一つ――“正義”だ!
この世界を照らす、新たなる正義を!」
歓声は激しさを増す。
だが、その中には恐れを湛える目もあった。
それは「力」だった。
そして、力は常に――炎を伴う。
王の間 ― ハルト、群衆を見下ろす
広き窓の奥から、ハルトは群衆を見下ろしていた。
その隣で、カオリは腕を組み、眉間に皺を寄せている。
後ろにはオーレリア、静かに立ちつつも、常に警戒を崩さぬ目で外を見ていた。
そしてその傍ら、エリザベート王妃。
面白そうに微笑みながらも、眼差しは政治的な算盤を弾いていた。
カオリ
「あの男……熱が強すぎるわ。危うい。」
オーレリア
「愚かではない。群衆を動かせる。
そして群衆は――時に、刃より危険。」
ハルトは微かに笑みを浮かべる。
ハルト
「今は“有益”だ。
腐りきった王国に、信を灯す火種になる。」
エリザベート
「だが火種は……王すら焼くことがある。」
一瞬、沈黙が訪れた。
ハルトは静かにカーテンを引き、視界を遮る。
ハルト
「わかっている。
だが……今ではない。」
その金色の瞳が、氷のように冷たく輝いた。
ハルト
「今は、称えさせておけ。
その声を聞く者は――かつての王を忘れる。」
カオリが笑みを浮かべる。
忠誠と、暗い誇りの入り混じった笑み。
カオリ
「さすがです、我が王。いつも先を見ておられる。」
オーレリアは槍の柄を握る手に力を込める。
オーレリア
「それで、あの男をどうするおつもりで?」
ハルトはくるりと踵を返す。
黒いマントが床をなめるように揺れた。
ハルト
「“王”は、己を高らかに称える者を――決して殺さぬ。」
彼は立ち止まり、
床に映る自らの影を見下ろす。
そこには、彼の顔とそっくりな笑みを浮かべる――別の自分がいた。
ハルト
「ただし……その者が、どこで眠るかは必ず知っておく。」
アレンは、群衆の前で言葉の剣を振るい続けていた。
アレン
「ハルトは暴君ではない!
彼は“解放者”だ!
暁は、鎖を砕く者たちのものである!」
民衆は叫ぶ。
拍手が鳴り、希望が燃え上がる。
その熱は、街を包む炎のように広がっていく。
だがその上空――
鐘楼の影に、一つの気配が潜んでいた。
モモチ。
仮面の奥の瞳は、夜のごとく冷たい。
誰にも気づかれず、その全てを見ていた。
モモチ(心中)
(“敬意”と“偶像”……
どちらも、やがて“裏切り”に変わる。)
月が昇る。
王国が征服されただけでなく、
心までもが征服されつつあった。
ハルトの名は祈りのように口にされ、
その思想は炎のように人々の胸を焼いた。
だが、誰も知らない。
その影に潜む、冷たく残酷な真実を――
「民の声を制する者は、世界を制す。」
「だが、大きく叫びすぎた者は……いつでも、黙らせられる。」
――つづく。
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