見えぬ糸の王国
水霧に覆われた湖の上に、ガラスの宮殿が浮かんでいた。
その内部の壁は魔法の鏡でできており、王国で最も恐れられる魔女、月城レイナ女王のすべての動きを映していた。
カイト邸の火災の噂は数時間前に彼女の耳にも届いていた。
だが彼女は微動だにしなかった。
サファイアの玉座に座り、指にワイングラスを挟んで、彼女は微笑んだ。
—「つまり“太陽の英雄”は堕ちたのね。皮肉ね……輝きはいつだって火を引き寄せる。」
周囲には、虚ろな瞳をした侍女たちが静かに控えていた。
彼女たちは“エコー”と呼ばれる――感情を奪う呪いで意志を縛られた女たちだ。
レイナにとって彼女たちは侍女ではない。体の延長である。
そばで、浮遊する水晶の球が魔法の伝令で震えた。
—「お側様、貴族たちが審議のための謁見を求めています。」
—「待たせて」彼女は目を上げずに答えた。—「制御を失った者に私の時間は不要だわ。」
その言葉は柔らかかったが、一つひとつが鎖のように重かった。
のちに、レイナは夜の庭の魅惑のバラ園を歩いた。
一つひとつの花が生きており、訪れた者から奪ったマナで養われている。
彼女はこの場所を愛していた。美しく、そして従順だった。
水面に映る自分と目が合う。月の下の海のように輝く濃い青の髪、深いサファイア色の瞳は知性と不穏な静けさを湛えていた。
身体にぴったりと沿う優雅な礼服は魔法そのもののように織られ、光の蛇のように動くルーンで飾られている。
彼女は目を閉じた。心の中で、過去の声が響いた。
「レイナ、こんなままじゃダメよ。人を信じることを覚えなきゃ。」
目を開け、苦い笑みを浮かべる。
その声は、かつて日本にいたときの母のものだった。
召喚される以前、レイナ・ツキシロは模範的な高校生だった。
美しく、気品があり、常に完璧。
しかし内側では、もっと前に何かが壊れていた。
空っぽの教室、十二月の冷たさ、そして顔を向けて微笑むふりをして陰で嘲る少女たちを思い出す。
「アンタは全部偽りだよ、レイナ。」
「自分が上だとでも思ってるの?」
「化粧を落としたら何も残らないくせに。」
一言ごとに刃が入り、嘲りは生き延びるために彼女がまとった氷の衣の縫い目を一つずつ増やしていった。
教師たちが目を逸らすと、彼女は一つの決定的な教訓を学んだ:
支配しなければ、支配される。
だからこの世界に召喚され、精神を操る魔法を知ったとき、彼女はそれを生涯待ち望んでいたかのように受け入れた。
レイナが手を上げると、近くの鏡が輝き始めた。
そこには都市の映像が映し出される:兵士、商人、司祭たち。みな彼女の見えざるルーンと囁きに無自覚に従っている。
—「混沌は私を煩わせない」彼女は呟く。—「混沌は私に従うだけだ。」
金髪の侍女が報告を携えて近づいた。
—「お側様……《ソル・ドラード》と呼ばれる一団が火災の背後にいるのでは、との声があります。」
—「来させればいい」レイナは冷静に答えた。—「書き換えられぬ鎖などないわ。」
指が鏡に触れると、彼女の映りは微笑んで応えた。
—「この世界で……私は愛さない、信じない、失わない。支配こそが私の唯一の真実。」
その夜、彼女の領地に降る魔法の雨の下で、レイナは目を閉じ腕を広げた。
指先から何千もの青い光の糸が生まれ、空を飛び、村々や城や寺院へと張り巡らされた。
一本一本が心と意志を結び、触れられた者たちは震えた。
—「これでいい」彼女は囁く。—「世界は、一つの思考が支えるときにこそ美しい。」
遠く離れた場所で、ハルトは山の上から地平線を見つめ、その魔法の残響を感じていた。
—「もう始まった」カオリが呟く。
—「ああ」ハルトが答える。—「糸を操る者が糸を動かした。さて……誰が最初にそれを断つか、見ものだ。」
この章では、グループの魔術師である月城レイナの過去が明らかになります。
彼女の支配への執着は、日本で経験した裏切りと孤独から生まれました。そして今、彼女はマインドコントロールの魔法を使い、自らのイメージを体現した王国を支配しています。
黄金の太陽とレイナの青い糸の戦いが始まりました。
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