聖戦の暁
夜明けは灰色だった。
風が運ぶのは雪ではなく、灰だった。
征服された世界のあちこちで、三つの鐘が鳴り響く。
それに応じるように、軍勢の咆哮が大地を揺らす。
北から迫る白き聖旗の軍団。
口には祈り、目には恐怖。
だが、その前に立ちはだかる三つの軍。
一つの旗印のもとに集う。
ハルト・アイザワの黄金の太陽――偽りの信仰を打ち砕く、新しき秩序の象徴。
ハルトの声が、魔法で強められた音で砦の頂から響く。
「我らが今日、戦うのは神のためではない。
人としての権利を奪われた、その償いのために戦うのだ。」
軍勢が、ひとつの獣のように咆哮を返す。
地面が震えた。
三つの鐘の音が消える。
戦争が始まった。
北方戦線 ― カオリと贖いの残響
雪に覆われた大地が、地平線まで広がっている。
カオリは軍の先頭に立ち、槍を高く掲げる。
黄金の髪が嵐に揺れ、胸の太陽の紋章が脈動する。
対岸に、光の翼を持つユウトが舞い降りた。
その顔は、かつてと変わらず――傲慢で、確信に満ち、そして盲目。
ユウト
「カオリ……お前が“神の敵”に身を投じるとはな。」
カオリは静かに見上げる。
カオリ
「お前が“神”と呼ぶもの。それは、ただの恐怖の名だ。」
周囲の兵たちが緊張に息を止める。
ユウトが槍を構える。
ユウト
「ハルトに洗脳されたんだな。俺が目を覚まさせてやる!」
カオリ
「違う。彼は私を――“解放した”の。」
激突の瞬間、槍と槍がぶつかり、巨大な衝撃波が戦場を覆う。
氷が割れ、空が唸る。
カオリは腕から血を流しながらも立ち上がる。
ユウト
「なぜ……まだ戦う!? こんな奴のために!」
カオリ
「だって彼は……“嘘”をつかなかった。お前と違って。」
カオリの剣が金の炎をまとう。
その一撃一撃が、信仰ではなく信念の祈りとなる。
最後の一閃。
ユウトの槍をかわし、回転と共にその胸を貫いた。
ユウト
「……これが、嘘だったのか……?」
カオリ
「違う。嘘は、“選ばれし者だけが生きる価値がある”って考えよ。」
血の中に、静かに雪が降り積もる。
北は、赤に染まった。
東方戦線 ― モモチと悔恨の影
霧に包まれた森は、音の迷宮だった。
モモチは息すら見せず進み、彼女に触れられた者は気づく間もなく倒れた。
その先にあるのは、“審判の使徒”カガモの旗。
目は空虚、笑みは歪んでいる。
カガモ
「“恐怖”を操ることが、どれほど美しいか知ってるかい?」
モモチ
「……“恐怖にすがって生きる”ことの醜さなら知ってる。」
カガモが旗を振ると、霧の中に無数の“モモチ”が現れる。
偽物の影が彼女を囲む。
カガモ
「自分が誰だか、わかるかな?」
モモチは目を閉じた。
沈黙が、全てを満たす。
モモチ
「私は、自分の姿を見ずとも“自分”を知っている。」
一閃――銀の弧が霧を切り裂く。
幻影が消え去り、カガモが一歩退く。
彼女はその背後に現れ、冷たい月のような声で囁く。
モモチ
「……お前の“審判”はここで終わりだ。」
刀を地に突き立て、魔旗を断つ。
黒い魔力が砕け、操られていた兵たちが正気を取り戻す。
泣き叫ぶ者、祈る者。
モモチは振り返らず、ただ刀を拭った。
カガモ
「なぜ……私を殺さない?」
モモチ
「お前はもう“死んでる”。それに気づいてないだけ。」
霧が全てを包み、やがて――彼はそこから消えていた。
残されたのは、燃える旗と、モモチの悲しき眼差し。
西方戦線 ― マグノリアと混沌の咆哮
空が燃えていた。
マグノリアは機竜の背に乗り、爆笑と共に空を裂く。
魔導弾が空を花火のように染めていた。
対するは、懲罰の使徒・リク。
信仰の爪を持ち、砲撃を切り裂きながら迫る。
リク
「相変わらずだな、カガミ。衝動だけで動く下品な女!」
マグノリア
「そっちは変わらないね、リク。偽神コンプレックス。」
ルーン弾が空を舞い、火・氷・毒が空を彩る。
リクが突進し、機竜の片翼を破壊。
マグノリアは咳と共に笑う。
リク
「お前に勝てるわけがない! 俺には“信仰”がある!」
マグノリア
「ならその信仰に……もっと防弾性が必要ね。」
彼女は機竜から飛び降り、自由落下しながら鎖を操る。
《紅蓮懲罰》――鎖が赤く燃え、リクを巻き上げる。
マグノリア
「これは、“弱き者”のための一撃よ。」
彼と共に地へ叩きつける。
爆発が谷を照らし、煙が晴れたとき――立っていたのは彼女ただ一人。
マグノリア
「……理想のために死んでも、聖人にはなれない。
ただの、頑固者よ。」
機竜が再び降りてくる。
彼女はその背に乗り、にやりと笑った。
マグノリア
「――一人、終了。」
中央戦線 ― ハルトとエイルリス、堕ちた太陽の審判
中心の大地は、氷と炎の混ざる大クレーター。
ハルトは静かに進む。
手にあるは、“逆光の槍”ルーメン・レクイエム。
その隣には、夜明けの死神――エイルリス。
黒翼を広げる。
エイルリス
「北の魂は血を流しています。
……それでも、進みますか?」
ハルト
「“憎しみ”は止めない。むしろ、それが“理由”になる。」
嵐の中、ヴァルマーが姿を現す。
青の光をまとうその姿。声は雷鳴の如く響く。
ヴァルマー
「アイザワ・ハルトよ。お前の存在は“冒涜”だ。」
ハルト
「お前の存在は“商売”だ。」
ヴァルマーが天に杖を掲げる。
空に聖なる円陣が浮かび、万の光槍が降り注ぐ。
エイルリスは大鎌を回転させ、半数を切り払う。
エイルリス
「この“天”……作り物の死臭がする。」
大地がうねる。
ハルトが手をかざす。
黄金のルーンが彼の周囲に浮かび上がる。
ハルト
「《召喚:終焉のアルコン》」
空間が裂け、異形の存在が降り立つ。
瞳に虹彩のない巨神。エネルギーの鎖に包まれたその姿。
一歩ごとに大地が揺れた。
ヴァルマー
「そ、それは……人の魔法ではない!」
ハルト
「違う。“神の真似事”をする代償さ。」
アルコンが吠える。
空が闇に染まる。
エイルリスが、大鎌を掲げた。
エイルリス
「ならば――これが最後の審判です。」
数時間後――
戦場は煙の海と化していた。
カオリ、マグノリア、モモチ、そしてエイルリスが、ハルトのもとに集まる。
朝日が昇り始めていたが、その色は灰色だった。
カオリ(小声で)
「……勝ったのね。」
ハルト
「今は、な。」
アルコンの巨体が、ゆっくりと灰となって風に溶けていく。
ハルトはそれを見つめながら、どこか寂しげに呟いた。
ハルト
「終焉ですら、永遠じゃない。」
エイルリスが静かに膝をつく。
エイルリス
「ご命令を、我が主。次は――?」
ハルトは遠く、崩れかけた地平線を見据える。
ハルト
「これからは……天が壊した世界を、我らが再び築く。」
マグノリアが疲れた笑みを浮かべる。
マグノリア
「もしまた誰かが“神”を気取ったら――」
モモチが冷静に続ける。
モモチ
「……その者にとって、私たちが“地獄”となる。」
風が吹き抜ける。
黄金の太陽の旗が、高く空に舞った。
世界は、再び姿を変えた。
だが今度は――奇跡によってではない。
人の意志によって。
――つづく。
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