凍てついた祈り
中央王国は、白い静寂に包まれて目を覚ました。
作物は季節を待たずに枯れ果て、
かつて黄金の小麦が揺れていた野原は、今や氷と灰の海と化していた。
村々では、空になった穀倉が墓のように口を開け、
民は寺院の前に長い列を作り、パンと薪、あるいは奇跡を乞うた。
だが僧侶たちに答えはなかった。
神々もまた、沈黙を守っていた。
王宮の窓辺で、オーガスト・ルナール三世はひび割れた唇を震わせながら外を見つめた。
「こんな冬、見たことがない…」とつぶやく。
傍らの側近は震えながら頭を下げた。
「“黄金の太陽”がもたらしたのだと人々は言っています。
奴が征服した地は、必ず凍りつくのだと…」
王は拳を握りしめた。
「迷信だ!季節の変わり目すら、あの偽者に与えるつもりはない!」
だが心の奥底では…それが真実かもしれぬと怯えていた。
サフィロン大聖堂では、枢機卿ガドリエルが信徒たちの賛美歌を聞いていた。
その声はかすれ、飢えに引き裂かれ、
祭壇の香は天に届くことなく、冷たい空気の中で崩れていった。
若い神父ミロが涙をこぼす。
「神父様…人々は通りで死んでいます。子供たちはもう祈らない。
“ハルトは天より早く応えてくれる”と。」
ガドリエルは目を閉じた。
「天が沈黙するのは、我らの信仰を試すためか…あるいは、裁くためだ。」
彼は羽ペンを手に取り、羊皮紙に書き記した。
「生き残る王国を召集する。
我らは“聖なる連合”を結成する。
神が沈黙するのなら、その意志を我らが語ろう。」
数日後――
雪に覆われた修道院に、生き残った王国の代表者たちが集まった。
最初に現れたのは、白い毛皮のマントを纏った王妃セリアンヌ。
その後に、冷酷な策略家として知られる南の王国のヴァルモン公。
最後に現れたのは、西の王国からの使者――
黒いフードで顔を隠した人物だった。
机の上には大陸の地図。
その上には、すでにハルトの手に落ちた地域を示す金色の印が広がっていた。
毎月、新たな染みが増えていた。
「この拡大を止めねば、治めるべきものなど残らぬ」
枢機卿ガドリエルが言った。
「崇めるものもな」
ヴァルモン公が皮肉を添える。
セリアンヌはため息をつく。
「人々はもはや神にも王にも信を置かぬ。ただ、ハルトを恐れている。」
すると、フードの使者が口を開いた。
その声は静かでありながら、芯が通っていた。
「ならば、その“恐れ”を利用しましょう。」
全員が使者を見つめた。
彼は続ける。
「一つの象徴を作るのです。“聖なる連合”という旗の下に、
残る王国を集める。
目的はただ一つ――“黄金の太陽の皇帝”を滅ぼし、信仰を世界に取り戻す。」
その提案に皆うなずいたが、使者の声に潜む何かに、誰もがかすかな不安を覚えた。
フードの下で、灰色の瞳が静かに光る――
彼は、ハルトの密偵だった。
その頃、光に包まれた要塞で、ハルトは魔法の水晶鏡越しに報告を見ていた。
カオリが疲れた微笑みを浮かべながら書状を差し出す。
「動き始めました。聖職者も、貴族も、王たちも…全てが。」
ハルトはうなずいた。
「必然だ。堕ちれば堕ちるほど、人は群れたがる。」
バルコニーの縁に座るアヤ・クロナミは、
手のひらに舞い落ちた雪の結晶を見つめながら言った。
「冬はあなたの敵じゃない、ハルト。
味方よ。」
「どうしてそう思う?」
「世界が凍える中…あなただけが、まだ燃えている。」
その瞬間、ハルトの背後に、
“黄金の太陽”の象徴が一瞬だけ浮かび上がった。
――新たな秩序の印だった。
同じ日、隠された寺院の中で、枢機卿ガドリエルは焚かれた炎の上に手をかざした。
「創造主の御名において、“聖なる連合”の結成をここに宣言する。」
炎が揺れた。
まるで、それがためらっているかのように――。
そして遥か彼方で、ハルトは胸に微かな圧力を感じた。
「ついに始まるか…聖戦が。」
その微笑は冷たく、鋭かった。
「ならば、私はその“預言者”となろう。」
外では、雪が降り続いていた。
だが、厚い雲の隙間から――
黄金の光が、静かに差し始めていた。
――つづく。




