王冠の黄昏
中央王国の玉座の間では、柱に埃が積もっていた。
王、オーガスト・ルナール三世――
中年の男で、光を失った目と震える手を持つ彼は、机の上の報告書を見つめていた。
すべての羊皮紙に、同じ言葉が書かれていた。
「東の王国が陥落した。」
「黄金の太陽が、また一つの国を呑み込んだ。」
貴族たちは、扇と偽りの笑顔の下で恐怖を隠しながら、囁き合っていた。
王妃セリアンヌは青い絹に包まれ、ほとんど注意を払っていなかった。
彼女の指先は真珠のネックレスで遊びながら、遠い笑みを浮かべていた。
「ねぇ、陛下」彼女は視線を上げずに言った。
「残る王国はあといくつ?」
王はため息をつく。
「三つ…今のところはな。だが皆、怯えている。」
汗をかいた太った枢機卿が一歩前に出た。
「陛下、ハルト・アイザワ皇帝は寺院を破壊し、信仰を堕落させ、神に逆らう存在を召喚しています!これは異端です!」
「それで、どうなさるおつもりですの?」
王妃は興味なさげに返す。
「破門にでも?それとも、もっと熱心に祈れと?」
神経質な笑いが広間を駆け抜けた。
王が机を叩いた。
「もうたくさんだ!ここは道化の舞台ではない!」
だが、誰も真剣に受け取らなかった。
その後、聖職者たちは香の煙に包まれた私室に集まった。
白髪で厳しい顔の司教ガドリエルが、大陸の地図を見つめながら語る。
「二つの王国が堕ち、一つは浄化され、一つが反旗を翻している。
このままハルトが進めば、北全体が彼の手に落ちる。」
若い神父が尋ねた。
「神託は…何か言っているのですか?」
ガドリエルはゆっくりとうなずいた。
「神託は言っている…“黄金の太陽”は人ではない。罰だ、と。」
沈黙が部屋を包み込む。
枢機卿が床を杖で叩いた。
「ならば、聖なる連合を結成せねばなるまい。
残る王国を招集し、信仰が敵わぬなら、剣で対抗するのだ。」
その頃、征服されたばかりの東の王国では、
アヤ・クロナミがハルトの前に跪いていた。
黒い翼が風に揺れ、沈む太陽が崩れた塔の背後に落ちていく。
「噂が広がっています」彼女が言う。
「あなたは神だと。」
ハルトは首を振った。
「違う。神々は見ているだけで、何もしない。
だが、私は動く。」
アヤは静かに彼を見つめた。
「ならば彼らは祈り、あなたは炎で応えるのでしょう。」
ハルトはカオリとアウレリアに振り向いた。
「中央王国への道を整えろ。今はまだ攻めない。
まずは…恐怖に働かせる。」
中央王国の大聖堂では、鐘が不規則に鳴り響いていた。
祭壇の前で、神父たちが埃をかぶった床に跪いている。
祈りは天に届かず、神々は沈黙を守っていた。
一人の修道士が泣き崩れる。
「もし“黄金の太陽”が、本当に天使だったら…?」
「不敬だ!」枢機卿が叫ぶ。
「奴は正義の皮を被った悪魔だ!」
だが、影の中から女の声が答えた。
「それなら、悪魔とは…お前たちが汚したものを清めに来たのでは?」
修道士たちが振り返る。
扉の枠に立っていたのは、黒い翼を持つ女――アヤだった。
彼女は慈しみの微笑みを浮かべて言う。
「ハルトは寺院を壊さない。
彼は、置き換えるのです。」
その言葉とともに、祭壇の蝋燭が一つずつ消えていった。
その後の日々、中央王国の民は新たな像を崇め始めた。
それは黄金と炎に包まれた姿――
背後に黒い円を従えた存在だった。
彼らはそれを「神」とは呼ばなかった。
ただ「正しき夜明け」と呼んだ。
王オーガストは部屋に閉じこもり、
異なる時を刻む時計たちに囲まれながらつぶやいた。
「すべてが崩れてゆく…奴を除いて。」
そして、時計が真夜中を告げた瞬間、
大陸の地図の上に、黄金の炎が浮かび上がった。
陥落した二つの王国。
包囲された一つ。
世界は――夜明けの淵に立っていた。
――つづく。




