闇に集う者たち
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風が再び塔の間を駆け抜けた。再建された北方の城壁に、氷青の地に金の太陽が描かれた新たな旗が揺れていた。その隣には西方で征服された王国の象徴、血赤の花「紅蓮の花」の紋章が掲げられ、今や両王国は一つの声のもとに統一されていた。
大広間――
地図が大きく展開され、その縁を囲むのは、ハルト・アイザワとその盟友たち。
カオリの軽妙な笑み、オーレリアの鋭い視線、マグノリアの静かな微笑み、エイルリスの落ち着いた立ち姿、そしてセルフィラ・フロストヴェイルの静謐な存在。
「北と西は制圧した」
セルフィラが魔法陣を操り、領土のプロジェクションを映し出した。
「民は誓約を交わした。 恐怖ゆえに、あるいは希望ゆえに」
ハルトは腕を組み、冷静な声で言った。
「理由など問わん。重要なのは――今、彼らに未来があるということだ」
カオリが柱に寄りかかり、ふと呟いた。
「そして、無視できない“指導者”もね」
エイルリスが静かに口を開いた。
「報告が入った。東の山岳地帯――再び動きがある」
マグノリアが眉をひそめて応える。
「また反乱?それとも……」
ハルトが声を落とす。
「違う。あれは――“彼ら”だ」
その言葉には、久々に感情が宿っていた。
「かつての同志たちだ」
――――
遠く、黒き山脈の頂き。雪と古代神殿の廃墟の中。
その場に立つは、ユウト・ホシナリ。ハルトの旧友にして戦略家。
その横に、カガモ・レツ。 彼の忠義深き副官にして今や「抵抗騎士団」の司令官。
ユウトは冷たく言った。
「ハルトはすでに二国を束ねた――このままでは大陸を征する」
カガモは兵旗を見つめながら答える。
「私たちの兵は、貴君を信じてる。 だが本当に戦えるのか?」
ユウトは歯を食いしばる。
「選択肢はない」
その背後では、魔術師・錬金術師たちが儀式を終えていた。岩の円環の中で、濁ったマナと古の魔物の残骸が渦を巻く。
「プロジェクト・キメラ…完了」
人型の魔獣が咆哮し、光を帯びた刻印を纏って立つ。
ユウトの冷声。
「ハルトがガチャ召喚を使うなら、我らは――人工兵を創る」
カガモは躊躇し声を潜める。
「制御できなければ…?」
ユウトの瞳は暗く光る。
「その時は我らの命で封じる」
山風が吹き抜ける。
カガモが呟いた。
「それでも…私たちがやろうとしていることが、彼と変わらない気がする」
ユウトは即答した。
「ハルトが先に越えたラインを、我らが追うだけだ」
――――
城の中――戦略室。
メッセンジャーが息を切らせて飛び込む。
セルフィラが眉を寄せて言った。
「報告によると、旧友たちが兵器を作っている」
エイルリスが付け加える。
「禁忌のマナを使っている。もし放置すれば――彼ら自身にも制御できぬ力を解き放つだろう」
ハルトは拳を机に置いた。
「王たちと同じ過ちを犯している。自分たちを救うつもりが、世界を破壊する」
カオリが鋭く問いかけた。
「マスター、あなたはどうする?」
ハルトが立ち上がり、黄金の外套を風に揺らす。
「まだ殺さない」
マグノリアが眉を上げる。
「まだ、ですか?」
ハルトは静かに頷いた。
「まず――彼ら自身に、自分が何になったかを見せたい」
異様な静けさが戦略室に満ちる。
オーレリアが燃えるような微笑みを浮かべる。
「では、出撃の準備を」
ハルトは微笑んだ。
「そうだ…世界間の戦争が、今始まろうとしている」
城の最上階、冷たい風が二つの太陽の光と交わる場所で、ハルトはかつての世界をもう一度見下ろしていた。
彼の後ろで、セルフィラが静かに、それでも揺るぎない声で問いかけた。
――炎は清めることも、滅ぼすこともできるわ。あなたは、どちらを選ぶの?
ハルトはしばらく黙って手を見つめた。
かつて不正に震えていたその手は、今や王や神さえも恐れるものとなっていた。
「憎しみで壊すつもりはない」と、ようやく口を開いた。
「だが、この世界が生まれ変わるために壊れる必要があるなら――俺がその引き金になる」
遥か遠く、ユウトとカガモの影が、怨念の灯火のように山頂で揺れていた。
大陸の両端で、かつての絆が裂けようとしていた。
ドアの横で、カオリが腕を組んで言った。
――それでも、あいつらは今もお前を“悪”だと思ってるかもしれないぞ?
ハルトはすぐには答えず、ただ目を閉じた。
風が強く吹き、まるで大地そのものが彼の決意を待っているかのようだった。
「なら、憎めばいい」
「俺のことを、暴君でも、偽りの英雄でも、魔王でも呼べばいい」
そして静かに、確かに言い放った。
「――だが今度こそ、この世界が同じ過ちを繰り返さないように、俺が立ちはだかる」
その瞬間、城下の帝国軍は一斉に咆哮を上げた。
氷の上に、炎の中に、そして失われた記憶の上に、黄金の太陽の旗がはためいた。
裏切られし者たち、赦された者たち、そして決着を望む者たち。
すべてが交差する戦いが、今――始まろうとしていた。
――つづく。




