1話俺狐になったってマジ?
昼下がりのコンビニ前。
神山煌正、十八歳。高校を卒業してフリーターとしてぬるっと人生を流していた男だ。今日もおにぎり片手に、近所の公園の木陰でぐだぐだしていた。
「はぁ……やりたいことも、なりたいものもない。……俺、なにしてんだろ」
何の目標もなく、ただ日々をやり過ごすだけ。
スマホで流れてきた「異世界転生したいランキング」なんて記事を読んで、思わず苦笑いする。
(異世界ねぇ……モンスターと戦ったり、スキル手に入れたり、そういう派手な人生も悪くないよな)
そんな他人事な妄想が、現実になるとは――このとき、思ってもいなかった。
「おい、危ない!!」
鋭いブレーキ音と、誰かの怒鳴り声。
反射的に顔を上げると、目の前にちっちゃい子供。
飛び出してきたんだろう、迫るトラックの影が視界を覆った。
(……嘘、だろ?)
考えるよりも先に、体が動いていた。
全力で子供を突き飛ばす。
代わりに、俺の身体が、金属の塊にぶち当たる音とともに――世界が、真っ暗になった。
(……転生とか、あるのかな……)
最後に浮かんだのは、そんなバカみたいな妄想だった。
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「……し、んでねぇ?」
目を覚ました俺は、まず、身体の違和感に混乱した。
(手……じゃねぇ、前足?)
もふもふした小さな白い前足が、土の上に突き出てる。
水たまりに映る自分の姿は――どう見ても、白い狐だった。
(アルビノ……か? てか、なんで俺、狐になってんの!?)
混乱の極みにある中、頭の中に唐突に聞こえてくる声。
《魂適合完了》
《転生対象種族:狐(分類:神使)に設定》
《近縁種のエネルギーを検知:霊石(????)》
《霊石を摂取すると、スキル獲得および種族進化の可能性があります》
(……ま、まさか……マジで異世界転生!? 俺、いまチュートリアルやってる!?)
周囲を見渡すと、そこは古びた神社の境内だった。
山奥の、誰も来ないような場所。神聖というより、なんか……放置されてる感がすごい。
そして――本殿の奥に、なにやら妙な石がぽつんと置かれている。
(これが霊石ってやつか……うわ、なんか光ってるし、絶対あやしい)
だが、本能的にわかる。
あれを食えば――何かが変わる。
(……転生特典と思おう)
俺はそのまま、警戒しつつも、勢いよくかじりついた。
《霊石摂取を確認》
《スキル【霊視】【風纏い】【言語理解】を獲得》
《システム機能【ステータス確認】を解放》
《現在レベル:1》
《進化ルート:分岐解禁》
《進化条件:経験値・名声・信仰》
「うっわ、マジでゲームっぽくなってんじゃん!?」
目の前に青白いウィンドウが浮かび、俺は完全に混乱と興奮の渦中だった。
レベル、スキル、進化――狐になって、俺の“新しい人生”が始まったらしい。
………人生?