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06

 かき氷の販売を始めた。専門店のようにフルーツを乗せる、ということはせず、シロップをかけただけであるが、これが評判だった。俺も休憩時間になると自分で作って食べた。


「カズくん、今日はもうアレのお客さん来ない?」

「うん、予約はないよ。どうしたの?」

「帰ったらそうめんにしようよ。俺、錦糸卵も作るからさ」

「いいねぇ」


 夕方五時半。ひいきにしてくれるようになった喫煙者の老人を見送り、テーブルの上を片付けた。もう今日は閉店になるまでこっそりスマホでもいじって待とうか、なんて思っていた時だった。扉が開いた。


「あっ……いらっしゃいませ……」


 俺は息を飲んだ。現れた客が、目を見張るような見事な赤髪だったからだ。それをボブカットにしていた。この暑いのに長袖のシャツを着ていて、ボトムは細身の黒いパンツ。性別は……わからなかった。男女どちらにも見える。そして、美形だ。


「九楽和美さんにお会いしたいのですが」

「あっ、はい!」


 兄を名指しするということは、喫茶でなく霊視の客だと判断した俺は、バックヤードにいた兄を呼んだ。


「カズくん、多分アレのお客さん」

「ん? 飛び込みかな。まあいいや」


 兄はその客を見ると、困ったように眉を下げた。


「あっ、バレましたか」

「バレバレですよ。店の名前そのままですし。バレないと思ったんですか?」

「まあ、いつかバレるつもりでやってました」


 話が読めない。俺が頭の中に大量の疑問符を浮かべていると、兄が言った。


「えーと、こちら、七宮慶香(しちのみやけいか)さん。どこから説明したらいいかな。まあ、座って話しましょうか。ナオくん、クローズの札かけといて」


 俺は一度表に出て札をかけた。戻ると、兄と七宮さんはカウンター席に座っていた。


「ナオくん。かき氷三人分よろしく」

「うん……」


 かき氷機は一つしかない。三人分だとそれなりに時間がかかる。大きな音もするし、俺がかき氷にかかりっきりになっている間の兄と七宮さんの会話は聞こえなかった。


「お待たせしました」

「じゃ、ナオくんには食べながら説明しようか! 七宮さんへの弁明は終わった!」


 兄を中央にして、俺と七宮さんで挟む形で座った。兄は言った。


「ナオくんにも、そろそろ九楽家と七宮家のこと説明するね……」


 なんでも、九楽家は七宮家の分家らしい。ここにいる七宮さんとは、辿って行けば先祖は同じということだった。そして、七宮家は「異界」の門番だとさらりと言われたが、異界の存在がファンタジーすぎてすぐについていけない。

 七宮さんが言った。


「異界の説明は私から。ここ、湊市は、人ならざる者や、人であった者が住まう、異界という別の世界と繋がっています。七宮家の当主である私が、その管理をしているのです」

「……はぁ」

「まあ、ナオくんもすぐには信じられないよねぇ」


 何から質問すればいいのかわからなかったが、一呼吸置いて、まずはここから始めた。


「で、カズくんは七宮さんとはとっくに知り合いだったと?」

「うん。霊視能力があるってわかった後、僕だけ九楽のお祖父ちゃんに呼ばれたことがあったんだよ。その後に、湊市に行くように言われて。それで七宮さんと会って説明聞いた」

「知らなかった……」

「ナオくんには隠してたからね。商売手伝うようになってもらったし、そろそろ打ち明けようとは思ってたんだけど、七宮さんの方から来ちゃったかぁ」


 七宮さんは、丁寧な仕草でかき氷を口に運び、飲み込んでから言った。


「こちらに来られるなら言ってくださったらよかったのに。七宮家としては、湊市で霊視を商売に使うことは構いませんよ」

「いやぁ、先に既成事実作ってしまえ、って思って黙って始めちゃいました」

「もう……和美さん。そういうところですよ」


 どうやらこの二人は、俺が知らないだけである程度の交流はあったらしい。七宮さんは咳払いをした。


「どうせ、異界繋がりのことがあってから私に相談すればいいや、くらいに思ってたでしょう」

「うわぁ、バレバレ」

「どういうこと……?」


 兄は自分の毛先をくるくる指で弄びながら話し始めた。


「これもさぁ、説明難しいんだけど……」


 兄によると、人間が何かのきっかけで「異形」と呼ばれる化け物になり、七宮さんが異界に送る、というケースがあるらしい。異形は人間としては死んでいるため、霊視ができる。その場合、異形と意思疎通をするためには、直接異界に行かなければならないということだった。


「……カズくん、ギブ。情報量多すぎ」

「だよねぇ。まあ、でも、百聞は一見にしかず、って言うじゃない。七宮さん、どう? 行ってみていい?」

「まあ、いいですよ。直美さんも九楽の家の方ですし」

「えっ? 行くってどこへ?」

「異界」


 気楽でボロい仕事だと思っていた。俺……とんでもないことに首を突っ込んでいたのか?


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