表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/50

49

 店を再開してから三日目。俺は休憩時間にバックヤードでスマホをいじっていた。客が少なくて暇なのだろう、兄が覗きに来た。


「またヘビ娘?」

「いや、あれはやめた。新しく趣味作ろうと思ってさ。ジムに通おうと思うんだけど……」

「ジムぅ?」


 俺は兄にスマホの画面を見せた。近所に二十四時間営業のジムがあったのだ。


「へぇ……なんでまた身体鍛えようと思ったの?」

「あそこから逃げる時さ……俺途中でへばったじゃん? 体力つけたい。それに、腕力で解決できるならそれでカズくんを守りたい」

「ナオくんって根っこの部分は変わらないなぁ」


 休憩を終え、遼と交代。喫茶「くらく」は今日も静かな時間が流れている。コーヒーとタバコの香り。控えめな話し声。カウンターに立つとよく見える可愛らしいツリー。これこそが俺と兄の居場所。ここを守っていきたい。ずっと、ずっと。

 せわしなく接客をしながら時間が過ぎ、夕方五時半頃。見覚えのある黒髪の男の子が店にやってきた。


「あ、あのぅ……少し来るのが早かったですかね?」


 兄が声をかけた。


「迅くん! コーヒーでも飲んで待ってて」

「実は……コーヒー飲めなくて……」

「他の飲み物でもいいよ」

「ホットミルクで……」


 迅はカウンター席にちょこんと座った。浮かない顔だ。俺はどんな報告が来たとしても受け止める心の準備をした。六時になり、俺はクローズの札をかけた。遼が言った。


「おれが片付けしますんで、お二人は迅の報告聞いて下さい」


 俺と兄は迅の前に並んで立った。


「一時的なものでしょうか……神の力が弱まっていて、美乃谷地区に入ることができました。それで。三綿家の男性ばかり七名が亡くなっていました」


 迅が到着した時、三綿の血を引く家が荒らされ、内臓を食われて死んだ男たちの死体が転がっていたらしい。残った者たちは、その死を表沙汰にせず、秘密裏に埋葬することに決めたそうだ。

 例の「カミサマ」がいた洞窟の中までは、迅は入ることができなかったそうだ。力は弱まったとはいえ、存在は感じたらしい。まだ、あの神はあそこにいる。


「俺が助かった代わりに……七人が死んだ……」


 とん、と兄が俺の背中を叩いた。


「ナオくんは悪くないからね。思い詰めちゃダメ。さすが神だね、女性は残したのか」


 迅が言った。


「おそらく、三綿家の血を絶やさないためでしょうね。五十年後……またありますよ、きっと」


 もう起こってしまったことは取り返しがつかない。けれども俺はカウンターに拳を叩きつけた。


「神っていうのは……どうにもできねぇのかよ……」


 兄はタバコを取り出し、火をつけてから言った。


「まあ……そういうものだよ。人間の力が通用しない。勝てない。屈するしかない。それが神。僕たち人間は犠牲をなすりつけあって、そうして生き延びるしかない」


 ふと、あることに気付いた。


「ってことは、美波ちゃんは無事だよな?」

「そうだね。まあ、あの子は絶対無事だろうと思った」

「なんで?」

「美波ちゃんは博美さんの実の娘じゃないんだ。托卵ってやつ。美波ちゃんのお母さんの霊視をしたんだよ。その時に打ち明けられた。美波ちゃん本人には言ってないけどね」


 思わず言葉を失ってしまった。


「まあ、そんな感じでさ、本当の三綿の血筋はあまり残ってないんじゃない? 実際のところは知らないけど」

「うわぁ……」


 報告をしてくれた迅をねぎらうと、また遼とケンカを始めた。


「おれも当主さまの家行く! おれも!」

「今回こそ譲らないからね!」


 そんなアホらしいことでわめいている二人……二羽? を見ていると、少しだが緊張がほぐれてきた。俺は頭を二つ、ぐいっと掴んで言った。


「迅は今回めちゃくちゃ頑張ってくれたんだ。遼、譲れ」

「ですよね!」

「離せこの暴力弟!」


 店を閉め、いつものスーパー、マルゴに向かった。今日はさすがに料理をする気がしない。惣菜を買い込んだ。


「カズくん、どうせそのエビフライ」

「尻尾は食べてね!」


 家に帰り、ダイニングテーブルの上いっぱいに惣菜を広げ、兄と向かい合って食べる。こんな日常の幸せが戻ってきたが、あれだけの犠牲が出てしまった。そのことを飲み込むには、まだ俺には時間が必要だろう。

 兄が言った。


「これでひと段落だね。三綿家の因縁ともしばらく関わらずに済む。ってことは……お金余ったなぁ」

「あっ、お金も無事だったんだね」

「どうしようかなぁ。別に買いたい物とかないしなぁ……」


 俺はひらめいた。


「旅行は? どこか行かない? いい宿泊まって美味しい料理食べて!」

「いいねぇ! 温泉は? 温泉にしない?」

「あっ、でも俺、腕……」

「客室露天風呂があるところにしよう! そうしよう!」


 夕食後、俺と兄はネットで温泉宿を探し、クリスマスになる前に決行することにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ