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 十月も半ばを過ぎ、ハロウィンの熱気が伝わるようになってきた。湊市ではハロウィンフェスタが行われるらしく、そのポスターを店にも貼っていた。二葉が来るまで、俺はそのポスターをぼんやりと眺めていた。


「カズくん、仮装大会の賞金、商品券一万円分だって……」

「なんだ商品券か。僕は現金がいいな」


 そんなことを話していると、扉がノックされた。俺が出た。兄にはカウンターの奥に引っ込んでおいてもらった。


「二葉だな」

「はい……」


 二葉は兄の大学の同級生。三十歳のはずだ。それにしてはやけに老け込んでいて、四十代に見えた。度数の高そうなメガネをかけていて、おずおずと俺を見上げてきた。


「俺は弟の直美。まずは身体検査をさせてもらう」


 俺が出した条件がそれだった。二葉を店に入れ、ポケットの全てを俺が探った。持っていたトートバッグの中身をテーブルの上に取り出し、危険物がないかどうか確かめた。


「これで……大丈夫でしょうか」

「ああ。少しでも怪しい動きをしたらぶん殴るからな」


 兄がそっと二葉に近寄った。


「久しぶりだね、友樹くん」

「うん……和美くん……元気だった?」

「この通り。おかげさまで店も繁盛してるよ」


 兄と二葉が向かい合わせに座り、俺は二葉の隣にぴったりと立った。いつでも身体を押さえつけることができるように。

 兄はテーブルの上に置いてあったブローチを手のひらに乗せて言った。


「これがお母さん……房子さんのブローチだね?」

「そう。昔、誕生日にあげた」


 そのブローチは、蝶の形をしていた。鮮やかな青色だ。


「母さんは、外に行くときはいつもそのブローチをつけてた。それを置いていなくなったんだ」

「わかった。霊視する前に……少しお話ししない? 何か飲み物出すよ」

「じゃあ、ホットコーヒー」

「遼、よろしく」


 俺が二葉から離れられないので、飲み物は遼が用意するということにしていた。遼がコーヒーをいれている間、兄は語りかけた。


「今はコンビニでバイトしてるんだって? 順調?」

「深夜帯に入ってる。まあ……何とかやってるよ」

「そっか。友達とかできた?」

「同僚や先輩とは上手くやってるよ」


 二葉の今の事情なんてどうでもいい。とっとと霊視を始めればいいのに、遼がコーヒーを持ってきてもなお、兄は二葉との世間話をやめなかった。二葉がろくに金を持っていなさそうなことくらい俺だってすぐわかるというのに。


「……うん。生活できてるようで何より。さて、霊視するよ。わかってると思うけど、死んでいた場合にしか視えないからね」

「わかってる。お願い。頼むよ」


 兄はブローチに手をかざした。そして、すぐにその手を引っ込めた。まるで静電気が起こったみたいに。


「カズくん! 大丈夫?」

「う……これはちょっと……まずいかも」

「もしかして、あっち?」

「いや、違う。もっとまずい」


 兄はぐしぐしと両手で顔をこすり、大きく息を吐いた。


「友樹くん。今回の件、僕の手に負えるかどうかわからない。でも、僕と友樹くんは友達だから。できる限りやってみる。このブローチ、預からせてくれないかな? 時間がかかる」

「うん……わかった。ということは、母さんはもう……」

「おそらくそう。でも、ちょっと事態は複雑だ。よくよく調べさせてほしい」

「ごめん……本当にごめんね……」


 二葉が出ていった後、俺は兄に尋ねた。


「異界ではないってこと?」

「うん。それは確実。異形にもなってない。これ以上は……そうだな。七宮家に行って霊視したい」

「はいはーい! ほな転移しましょか!」


 遼に転移させてもらい、七宮家に来た。七宮さんに洋間に案内され、ソファに座った。七宮さんが言った。


「今度はかなり厄介な件みたいですね」

「あ、わかります? そうなんです。多分アレですアレ」

「もう……何なのか、俺にもわかるように教えて?」


 兄は言った。


「房子さんはおそらく、神域にいる」

「……シンイキ?」

「神の領域」

「はっ? 神ぃ? キリストとかブッダとか?」

「それは信仰の対象であって神ではないんだけど……七宮さん! どう言ってあげたらいい?」


 七宮さんは困ったように眉を下げた。


「そうですね……大きなくくりでは異形の一つではありますが、人の力では太刀打ちできない存在。それを神と呼びます」


 兄が言葉を継いだ。


「七宮さんの力でもどうしようもできないくらい、強い存在のことだよ」

「私は異界を司る力はありますが、不老不死ではありませんし、食中毒になれば死にますね。しょせん、人間の身。人間にできることなどたかが知れているんですよ」

「そういうこと。どれだけ人間に害をなすとしても、放っておくしかない存在っていうのはいるんだよ」


 色々と言葉が尽くされているのだが釈然としない。俺は雑にまとめた。


「つまり、すっげーやべー異形?」


 兄が答えた。


「うん、まあ、その理解でとりあえずはいい。七宮さん、ここで霊視させてもらっても?」

「わかりました。危なくなれば引き剥がします」


 そして、再度霊視が始まった。


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