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 五味を泊めた翌日の営業終了後。いよいよ六角明日香の霊視だ。死体があるということは、異形化していないということで、遼はもう帰っていた。

 別荘は焼けたが、車は無事で、その中にヘアゴムがあったのだという。百円均一にでも売っていそうな、飾りのない黒い物で、それを使うことになった。

 兄がカウンターに立ち、ヘアゴムに手をかざした。俺と五味は、横並びに座って兄の様子を見守った。


「……えっ? えっ? ええっ?」


 兄がそれしか言わないので、俺は力んでしまった。


「カズくん! 何が視えてるの!」

「和美ぃ! 犯人は誰だ!」

「あーもう二人ともうるさいなぁ!」


 兄は腕を組み、左右に身体を揺らしてうなりはじめた。五味が言った。


「ややこしそうなのはわかった。犯人の名前だけ言ってくれ」

「ええ? 六角明日香」

「犯人の名前だって」

「だから……六角明日香。死んだのは別人。殺したのが六角明日香。そういうこと」


 五味は叫んだ。


「そんなはずはない! 司法解剖で歯型が一致してるんだ!」


 兄はヘアゴムに手をかざした。


「ちょっと待ってね……うん……事件の五年前から二人は入れ替わってて。六角明日香の保険証使って歯の治療受けたって」

「入れ替わり?」


 兄は一旦立ち上がってバックヤードに行き、ボールペンとコピー用紙を取って戻ってきた。そしてコピー用紙の左上に「四門遥香(しもんはるか)」と書いた。明朝体のような綺麗な字だ。


「淳史くんよく聞いてね? 死んだ四門遥香は六角明日香に頼まれて、五年前から六角明日香のフリをしていたんだ」


 六角明日香と四門遥香。二人は年齢も背格好も同じで、顔立ちもよく似ていたのだという。キャバクラの同僚として知り合い、双子のようだと話題になり、仲良くなった。

 六角明日香が「テンロク」をネットに投稿していた時、四門遥香が下読みしてアドバイスをしていたそうだ。そして、書籍化後、しばらくして。


「……六角明日香はスランプになった。思い悩んで編集とメールのやり取りもできず、四門遥香が代わりにするようになって、そして執筆までするようになった」


 俺は口を挟んだ。


「つまりゴーストライター?」

「そういうこと。四巻以降は四門遥香が書いたらしい」

「それってほとんどじゃん」


 五味が急かすように言った。


「それで、なぜ殺された。最終巻の執筆途中だったんだぞ?」


 兄は右手を上げて、左手でこめかみをおさえた。


「待ってて……その辺り聞くから……」


 数分のち、兄はタバコを取り出して火をつけた。


「うん……大体の話はわかった」


 四門遥香は、自分の名前で本を出したいと願うようになり、新人賞へ応募するための原稿を書き始めた。それが六角明日香にバレた。六角明日香は癇癪を起こし、一旦落ち着かせて眠らせたが……。


「深夜に紅茶を作って書斎に運ぶ途中に刺されたって。あの別荘には二人しかいなかったから、殺したのは六角明日香で間違いない、って四門遥香は言ってる」


 俺は言った。


「じゃあ刺した奴は見てないってこと? 強盗とかの可能性はないの?」

「えっとね……刺されて倒れた後、罵る声が聞こえてきたって。それが六角明日香の声なのは確実だってさ」


 兄はタバコをぐしぐしと灰皿に押し付けて言った。


「はい、今日の霊視は終わり! これ以上やったら倒れる! 名探偵、こっから推理して!」


 五味はカウンターの上のコピー用紙に「六角明日香」と書き添えた。ミミズでも這ったかのような汚い字だ。


「和美、二人は別荘で共同生活をしてたんだな?」

「そうらしいね」


 俺も推理に加わった。


「ということは、別荘で二人の人間が生活していたってことがわかれば、入れ替わりも証明できるんじゃない?」


 五味が首を横に振った。


「いや、別荘は完全に黒焦げだ。指紋も見つからないだろうさ。実際行ったが何も残ってなかったよ」


 現地での調査なら、警察も散々やった後だろうし、行っても意味がない。ということは。

 俺は言った。


「本物の六角明日香の居場所を突き止めるしかないね」


 兄と五味は深く頷いた。それから兄が言った。


「……まあ、今日のところはこれでおしまいにしようよ。僕、お腹空いちゃった!」


 三人で行ったのはラーメン屋だった。兄が言っていた通り、五味はトッピング全部乗せの上、テーブルにあった調味料をどかどかかけてラーメンをかき回した。スープを仕込んだ店主が泣くぞ。

 俺は五味に尋ねた。


「で? 今日も泊まるのインチキ探偵は」

「インチキ探偵はよせよ。まだ和美、というか四門遥香には聞きたいことがある。それが終わるまではよろしくな、弟くん」


 せっかく兄と気ままな二人暮らしだったというのに、ここにきて邪魔された。兄が情をかけているというのも気に食わない。


 ――平穏を取り戻すためには、俺も事件を解決するのを手伝うしかない。


 汚い音をたててラーメンをすする五味をぼんやり見ながら、俺は今回の事件について自分の考えをまとめ始めた。


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