06.女子の談義を盗み聞きする俺
お尻に興味がない女子と付き合うことを固く決意した翌日。
昨夜のその熱意とは打って変わって俺のテンションは下がっていた。
もちろん神崎の告白を断ってしまったことで気まずくなった関係性は理由の一つではある。
しかしこの問題は時間が解決してくれるのではないかとどこか楽観視している。
なんてったってオタクの仲だからね!
よって今最も悩んでいること、それはお尻に興味がない女子と付き合うことはほぼ不可能なのではということであった。
昨日調べたことだがお尻に興味がない女子、そんな人はおっぱいに興味のない男子なみに少ない。
だから恋人をつくろうと手当たり次第にアプローチをかけてもそれは徒労に終わるだろう。
いきなり相手の性癖を聞きたいがそんなわけにもいかない。
かといって「お尻に突っ込みたい?」などと質問ができるくらい仲良くなるまでにどれほど時間がかかるのやら・・・。
目の前の授業などそっちのけで、どうにか相手の性癖を探る方法を考える。
眉間にしわを寄せながら時間が過ぎ、いつの間にか昼休みの時間。
なにか手掛かりがあればと思い、俺は図書館までたどり着いていた。
目の前のドアを開け少し歩くと、入口とは正反対の室内の角に机を囲みいすに座る数人の人影が見える。
誰かはわからないが女子二人の後ろ姿、そして彼女たちに向かい合わせに七瀬がいた。
七瀬たちがこちらに気が付いた様子はない。
俺は見つかってしまうと気まずくなるだろうと思い、本棚で視線が通らないような位置にそそくさと移動した。
そして図書館に来た目的を果たそうと目の前のきれいに並べられた本の背表紙をざっと見る。
なにか役立つものはないかと考えて数秒。
静止していたことによって段々と遠くで話す女子の声が聞き取れるようになってきた。
「まあそんな感じなんだよね」
聞き覚えのある女子にしては少し低く落ち着いた声。
そんなヒントから俺はようやくこの声の主が黒木の声だと気づいた。
黒木まどか。
小学6年生あたりから七瀬と仲のいい友達である。
俺も黒木とは数回話したことがあるが、聞き上手でありコミュニケーション能力が高いといった印象だ。
「みんなはなにが重要だと思う?」
「割となんでもいいけどなぁ」
俺には気づいておらず、やや大きめな声で行われる女子の談笑。
盗み聞きしていることに申し訳なさを感じ、俺は適当に本をとり意識を集中させようとする。
しかしそれは話したことのない女子の声によってすぐさま不可能となった。
「てかぶっちゃけ顔か下半身・・・どっちが重要?」
俺の顔は本から視線を外して声のする方にを向いてしまう。
無意識のうちに俺は本棚の隙間から彼女たちを覗いていた。
下半身、それもお尻に興味があるのかどうかがわかるかもしれない。
そんな可能性を秘めた話題。
食いつかずにはいられなかった。
俺は固唾を飲んで次の言葉を待っていると、黒木が返答しだした。
「まあ消去法で顔かな。
私、あんまりお《・》尻に興味ないんだよね」
そう一部を強調して話す黒木。
俺は少しそのしゃべり方に違和感を持つが、すぐにもっと重要なことに意識が向く。
お尻に興味がない・・・お尻に興味がない!?
俺は驚き、思わず出そうになる声を抑える。
人を探すための方法を考えていたら、まさか探していた人が見つかってしまったのだ。
先ほどまで感じていた申し訳なさなどとうに忘れ、俺は続く会話に耳を凝らす。
今度は七瀬が質問に答え始めてた。
「私もどっちかというと顔かも。
そういう行為とかには興味ないし」
無理があるだろそれは!!
澄ました声で明らかな嘘を言うムッツリに心の中でツッコむ。
七瀬の顔をじっと見つめていた女子は、彼女の後ろにゆっくりと移動した。
そして次の瞬間。
突然座っていた七瀬を持ち上げ机に押し倒した。
「え!?」
驚くのもつかの間、後ろの女子は突然七瀬の腰を両手でつかむ。
そして自身の下半身を七瀬のお尻に押し出した。
「おらぁ!!」
叫んだかと思うと今度は腰を上下に動かし始める。
「ちょ、ちょっと!」
「どらぁ!
ほんとはお前もこんなふうに男のアナルをぶち犯してえんだろぉがよお!」
そこにはあまりにも下品な光景が広がっていた。
貞操観念が逆転したといってもこれほどまでとは・・・。
そんなことを考えている間にどんどん腰の動きは速くなる。
「や、やめ・・・!」
「ほらほら、正直にいっちゃいなよ。
したいです。私もほんとはしたいんですってよぉ」
「た、助けてよまどか・・・!」
眉をへの字にさせ、困惑した顔で手を伸ばす七瀬。
しかしきっぱりとした黒木の声が響く。
「こうなった千羽は止められない」
「そんなぁ!」
「ちょ」、「あ」と顔に赤みを帯びさせながら声を漏らす七瀬。
そして下品に笑いながら腰をふる千羽という女子。
俺は二人の姿を見ながら眉をしかめていた。
長い時間を一緒に過ごした幼馴染が抵抗もむなしくあられもない姿になっている。
たくさんの顔を見てきたが、そのどれとも言えない表情。
そう、不快感をもって俺はその現場を見ていた。
いたのだが。
気が付いた時には俺の下半身は固まってしまっていた。
尊大な羞恥心と屈辱感とは対照的に起き上がる愚息。
しかし、そんな俺の複雑な感情はお構いなしに行為は続けられている。
「おら!
私もしたいですって言えよ!」
「そんなことは・・・」
加速するスピード。ここからがラストスパートだと理解させられるように背後の千羽はまくしたてる。
そのときだった。
パンッ! と。
勢いよく叩かれた七瀬の尻が響くのは。
叩かれたことに驚いたのか、うつむいていた七瀬の顔が大きく上にあがる。
その瞬間―――
「―――あ」
俺と七瀬の視線が合った。
合ってしまった。
「ちょ、ちょっとほんとに待って!」
七瀬の顔が蒸気を発っしているのではと思うほど赤く染まった。
彼女はこの状況から逃れようとしたのだろうか。起き上がろうと両腕の手のひらを机につける。
しかしすぐに後ろの少女によってその腕は押さえられる。
「逃げようとしても無駄だよぉ」
後ろから抱き着くような形になり、なおもピストンは続く。
されるがままの七瀬は押されていることで「うっ」、「おっ」っと声を漏らしている。
そして俺と交差する視線。
「このむっつりが!
さあ言え!
言うんだ!!」
「うっ、うぅ・・・」
「したいと、言えぇぇ!!!!」
そう盛大に大声が出されて数秒。
揺さぶられていた七瀬の口がゆっくりと、しかし大きく開かれる。
「し、したい!
ほんとはしたいよ!」
叫ぶ七瀬。
幼馴染が強大なものに屈してしまった。そののような感覚に襲われる。
もう俺は限界まで茹でたソーセージのように張り裂けそうになっていた。
「うんうん、それでこそ女ってもんだ!」
そう言いながら千羽が離れると、七瀬は周りが驚くほど勢いよく起き上がった。
そして一言。
「私トイレ!」
「お、おう」
その後はもうスピードでずかずかと歩き、本棚を避け俺のそばにたどり着く。
そして立ち止まって一言。
「ついてきて」
七瀬は小さな声で耳打ちすると、出口に向かってまた歩き出す。
俺は前かがみになりながらその背中を追って速さを同じくして歩いた。