表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/106

(三)古傷

 織国(おりぐに)博物館は、ユウメの北東。いくつかある水路の一部を束ねた人口の湖に隣接していた。木材を流動的に組んだ波状の大階段の下に、丸みを帯びた鋼鉄の構造物が黒く光っている。さながら大きな魚影のようだとソウは湖を見下ろした。

「外観の元になったのは〈地底湖の種子〉と呼ばれる世界遺産のひとつです」

「知ってる。魔導潜水艦――魔導時代の遺物だよね。閉ざされた地底湖で座礁(ざしょう)してたのを、冒険者が発見したって」

 ソウが答えると、ナギは「ええ」とうなずいた。

「本来は水中を移動するはずなんですけれど、周辺には巨大な潜水艦が通れる場所なんてなかったのですよ。なので、その外観と、現代まで眠っていた種のようだという意味もこめてそう呼ばれているわけです」

 ナギは続けて言った。

「ただ、残念なことにほとんどの魔導機構が激しく損傷していて、艦内の記録装置も解析不可能だったそうです。調査によると、大規模な地殻変動によって周辺の地形が――……、」

 話を聞きながら、博物館をぐるりと回るように階段を下っていく。受付で三人分の券を購入して入口へ。この時期はやはり人が多いらしく、半券を渡された人々は次々と黒い構造物へ吸いこまれていく。ソウもまた、同じように足を踏みいれた。黒を基調とした内装のなか、人の流れに合わせながら階段をくだっていくと『神樹(かみき)のめぐみ ~豊穣と白亜~』と銘打たれた企画展が口を広げていた。

 黎明期から現代にかけて、画家がキャンバスへ残した各地の神樹の絵画がずらりと並べられたさまは圧巻だった。神樹や芸術にあまり興味がなくとも、なにか惹きつけられるようなちからを感じる。画家の名前はあまりピンと来なかったが、いくらか教科書で見たような名前もならんでいて、大胆な筆致で描かれた(たくま)しい枝ぶりのものから、〈白の境界線〉の白樹化を元に人々の恐怖と絶望をあらわした作品までさまざまだ。

 ふと目に留まったのは、青い海原の雪島で枝葉を伸ばす凍てついた大樹だった。添え書きに目を通す。制作者は不明。山凍地方の魔導遺跡から出土したもので、イルオール島の神樹をモデルに描いたものらしい。

 イルオール島といえば、〈雪果ての魔王〉終焉の地として語られる永久の凍島だ。絵画や詩歌の題材になることも多く、たいていは〈雪果ての魔王〉と〈暁の英雄〉が対峙する緊迫した場面や、〈暁の英雄〉が勝利をおさめた瞬間の栄光。あるいは白い雪原から魔族妖魔が、おどろおどろしく生まれ出るさまが描かれる。ソウが首をかしげたのは、この絵画が有名なそれらの場面でないことだった。静かな海原に浮かぶ雪島をそっと描きおさめたような印象で、夏の鮮やかな煌めきと氷雪の冷たさが共存する不可思議さ。さしこむ光がまばゆい夏の陽ざしを思わせるが、けっして神々しいわけではなく、日常の柔らかさがある。

(いろんな表現があるんだな)

 一抹の寂寥(せきりょう)感を遺すその絵画を通り過ぎる。

 次にならんでいたのは、黒曜(こくよう)地方の由来となった神樹〈オブシディアン〉だった。

「この神樹はソウくんにとって、なじみ深んじゃないですか?」

憂国(うれいぐに)は〈オブシディアン〉周辺の国から、魔鉱石を輸入しているからね」

 絵画に描かれた黒い大樹は、ほかにはない光沢をもち、天へ向かって流麗な曲線美を束ねながら屹立している。

 ナギは翡翠色の視線で、神樹の表面をなぞった。

「波のように美しい流れをもつさまが黒曜石のようであることから、この神樹は〈オブシディアン〉と呼ばれるようになったと言われています。数年に一度、花がひらくように色とりどりの魔鉱石を産出することから、才能開花の象徴としても有名ですよね」

「昔、魔狩試験の合格祈願に、って父さんが連れていってくれたよ。すごい人混みでさ」

 ソウは苦笑した。

「そろそろ、魔鉱石の産出時期だったかな」

「その頃には、もう憂国(うれいぐに)に戻ってるでしょうねぇ」

「無事に帰れたらいいけど」

 ナギの言葉に、ソウは冗談めかして肩をすくめた。ナギがなんの根拠もなく「きっと大丈夫ですよ」なんていう。ソウもまた、「だよね」と無根拠にうなずいてみせる。そんなふうに、笑いあって、一言一句を日常に溶かしながら、おもむろに考える。――故郷へ戻ったら。自分は黒影と〈殺しあい〉をする。もちろん死ぬつもりはない。とうぜん、自分は好きこのんで戦う人間でもない。けれども、彼女とそんな約束を交わした。殺してやると言った。これがどれほど異常なことか、わからないほどバカじゃない。

 ソウは足を止めた。思考を射止めた色彩があったからだ。

 展示ケースのなかで異彩を放つ、黒。ソウが両手を広げてもまだ長いそれは、神樹〈オブシディアン〉の地下大魔導遺跡から出土した〈原初の魔導武具(マナ・オリジン)〉の複製品(レプリカ)だった。思わず注視してしまったのは、それがじつに見慣れたものだったからだ。

「これ……」

 先を歩く、黒影を見やる。艶消しが施された漆黒の鞘。超然としたその一振りが、その細い背中で沈黙している。

「漆黒の秘宝――出土して、長らく魔狩協会が保管していたものですね。〈魔導武具(マナ・シリーズ)〉に改造するにも、構造が複雑すぎて技術班が根をあげたと噂の。あれですよ」

「じゃあ、あれは調整されていないものなの?」

 ソウは目を丸くした。ナギがいたずらに笑う。

「黒影ちゃんにしかあつかえない。いえ、黒影ちゃんだからこそあつかえる、たったひと振りなのです」

 現代人に合わせて調整された〈魔導武具(マナ・シリーズ)〉でさえ、使う人間を選ぶ。それが、まったく調整されていない〈原初の魔導武具(マナ・オリジン)〉となれば、どれほどのものなのか――想像もつかない。彼女はいつも、あんなものを振りまわしていたのかと、ソウは驚嘆した。と、同時に、ナギの反応にひとつの疑問が浮かぶ。

「ナギさんはわかってたの?」

「ええ。なので、魔幽(まゆう)大陸で初めて会った時、お二人が魔狩だってことは本当だと思ったんです。じゃなきゃ、護衛なんてお願いしませんよぅ」

 けらけらと笑うナギに、ソウはくす、と笑った。なんだか懐かしい気がしたからだ。ここまで来るのは長かったものの、こうして振り返ってみると、あっという間だったように思えて。ソウは、足を止めることなく歩を進める黒影を見やって、ふたたび、企画展へ視線を戻した。ふりかえると、数々の絵画。それぞれの筆致でキャンバスの向こうに世界が描かれ、そこには描いた者の思考や感情が広がっているように思えた。

(ライは、どんな絵を描くんだろう)

 ソウは頭の片隅でライが筆を動かすさまを想像した。ライなら、なにを選んで、どう表現するのだろう。ライは、なにを見て、なにを思うのだろう。そこにはきっと、自分(ソウ)のしらないライの世界があるはずで。――それを見ることができたなら。万一に、黒影との殺しあいで、自分が命を落とすことになっても。悔いはないのかもしれない。

 ソウは思考の一片をなぞりながら、それとはまったく別のことをナギに問いかけた。

「でもさ、神樹ってひと口に言っても、色々だよね。形も色もさ」

「神樹は大きく二種類に分かれるのですよ。さきほど話題に出た黒曜地方の〈オブシディアン〉と、白の境界線にあったものなんかは同じ種類ですね。イルオール島の神樹はちょっと違うんですけど、だいたい原理はいっしょで……ほかは、水瑠地方・青海地方の神樹が同じ種類です。それらのちがいとは、けっこう明確で――……」

 瞬間。ふつ、とナギの声が途絶えた。

「ナギさん?」

 ソウが呼びかけると、ややあって、ナギはいくらかまばたきをし、気恥ずかしそうに頭をかく。

「えっと、ごめんなさい。忘れちゃいました」


 ソウとナギが常設展まで見終えると、黒影は別館の図書室へ行きたいと言いだした。三人は博物館に併設された飲食店街で簡単に昼食を済ませると、そのまま別館へ向かった。

 水面を天井にした別館は、さながら水中の保管庫といったなりだ。大きなガラスの壁は湖の生態系を豊かに広げ、透過した光がカーテンのように揺れている。ソウはその光景に目を奪われたが、黒影は横目にちらと見ただけですげなく通りすぎ、足早に書架へ向かった。ソウはその背中を見送った。

「なんか、ちがう世界に来ちゃったみたい」

「そうかもしれませんねぇ」

 ナギはうなずいた。

「俺さ。最近よく思うんだ。ライに、こういう景色を見せてあげたいなって。ライは、きらきらしたものとか、かわいいっていうのかな。そういうものが好きでさ。本大陸に戻ってから、こういう世界があるんだよって、ずっと手紙を送ってるんだ。まぁ、返事はきたことないけど」

 ソウは苦笑した。

「でもやっぱり、俺が話したりするだけじゃなくて、見せてあげたい。きっと、ライが見てる世界は、俺よりもずっと鮮やかだと思うから」

「弟さんと、いっしょに見られるといいですね」

 ナギの言葉に、ソウはうなずいた。

「ライはたぶん、ずっと気にしてるんだよね。学校へ行けなかったことも、働けてないこともさ。けど、ようやく外の世界に踏みだせそうでさ」

 ソウは、ライの背中を思いだしていた。

「まだ二十歳。いまからだって遅くないよ」

「信じてるんですね」

「大事な家族(おとうと)なんだ」

 ソウは微笑んだ。

「ねぇ、ナギさん。俺、生きててよかったよ」

 窓辺に手をそえると、澄んだ光が温かく触れる。ソウは、さしこむめいめいの光を見つめた。――これから先、こうしてライに伝えたいことが、もっと、いっぱい増えていくのだろう。そんなことを思いながら。

 黒影の姿を見失ったソウとナギは図書館内の体験企画をめぐり、地図の観光スタンプを制覇して遊んだ。小腹が減ってきたころに喫茶店へ寄り、ユウメ菓子の竜眼餅(りゅうがんもち)とともに煎茶の飲み比べを楽しみながら足を休ませる。ソウはたえず話すナギへ、しばしば質問を返すものの、このところ出会った頃のように、いろいろと話題をつくったり大きな反応を示す必要を感じなくなっていた。それはナギが、こちらに過剰な反応や同意を求めたり怒ったりすることもなく、好きなことを好きなだけ楽しそうに話してくれるからだ。これに慣れてはいけないなと思いながらもこの関係性はじゅうぶんに居心地がよく、柔和な声で紡がれる時間は、いまやひとつの憩いとなりつつあった。

 黒影が戻ってきたのは、じつにその三時間後――十八時を迎えようというころだった。

 図書館の交流エリアで落ち合った彼女は、その細腕に何十冊もの書物を抱えている。いわく、持ち出し禁止のものはその場で読み、貸出可能なものはあらかた持ってきたのだという。ソウは黒影の腕から本のひと山を取った。ずっしりと重く、どれも厚みがある。ふと目についたのは、バリアブルに関する書籍だった。

「調査計画には参加しないんじゃなかったっけ?」

 黒影は鼻先をツンと尖らせたまま、なにも応えなかった。こういう場合は、おそらく説明するつもりがないときだろう。ソウはさらに、二・三冊ほど表紙をみる。史学に文化人類学、地学に生物学と続き、魔導時代の論文や魔鉱石に関する書籍も散見された。

「もしかして、一週間で、これぜんぶ読むつもり?」

「必要な箇所は目星をつけている」

 黒影は項目と頁数を書き記した紙を揺らした。

「これが、君が調べてるものにつながるの?」

「わからん」黒影はツンと答えた。

 ソウはもちあげた本の山をそのままナギへ持たせる。ナギが文句を言ったのは無視して、すでに歩きはじめていた黒影を追いかける。残りの山をすべてとりあげて、代わりに、喫茶店で購入した可愛いらしい小包を手のひらへ乗せてやった。黒い瞳が、うろんげにソウを見あげてくる。ソウは失笑をこらえて言った。

「おやつ。食べたら?」

 どうせ昼からなにも食べてないんでしょ、とつけくわえると、黒影はいっそう眉根を寄せたが、ややあって休憩場へ足を向けたようだった。ナギと二人、その背中についていきながら、おたがいに微笑む。いたずらを成功させたと言わんばかりの、子どもじみた表情だった。そのさきで、なにを感じ取ったのか黒影が足を止め、不服そうに睨んでくる。

「背中に目でもついてるの?」

「黒影ちゃんはねぇ、気配がわかるんですよ」

 ナギが笑う。相反して、黒影の眉間がシワを深くする。

「いいかげん叩っ斬るぞ」

「それは勘弁」

 ソウは冗談と肩をすくめると、本を持ちなおした。



 星空へうかぶ湯気が、透明になってゆく。ソウは宿の展望大浴場で、ほぅと息を吐きながら疲れた身体を湯船へ沈めた。山土の匂いを運ぶ夜風が、さらりと頬をなでる。満点の星空だ。ぼんやりと眺めながら、身を任せていると、溜まった疲れがゆるんでいくような気がした。――いまごろ、黒影もゆっくりしているだろうか。

 彼女は宿に戻るなり一間(ひとま)を本で占拠し、本を重ねるとそのまま文机に向かい座りこんだ。書物へ目を落としたその集中力はすさまじいもので、食事が来るまでのあいだ彼女は頁をめくる以外微動だにしなかった。黒影のすることについてあまり興味はなかったものの、あれだけ微動だにしないとなれば多少身体を心配するのも事実だ。もし明日も続くようであれば、茶菓子くらいは手配してやろうかと、頭の片隅で考える。トビとの飲み会が明日の夜に迫ってはいたものの、ユウメでやることといえば、それ以外とくに決まっていない。

「いやはや絶景ですねぇ」

 湯けむりの向こうに広がるユウメの中心部を見渡したナギ。旅人らしいその背には、彼の左手の紋様と同じ色をしたものが刻まれている。優美な曲線は、左の肩甲棘(けんこうきょく)から僧帽筋へ垂れこめるように右の肩甲棘へ。左右対称の黒紫はまるで、まぶたをほどんど下ろした人の眼にも見える。

(ほんと、不思議なひと)

 いままで特に気にしたこともなかったが、こうして眺めていると、ナギもまた異様だと、ソウは思った。顔立ちは若い青年そのもので、体格はソウとあまり変わらないくらいであるものの、そのありさまは長い旅路を経た精悍(せいかん)さがある。知識の量はソウのおよぶところではなく、ときに老獪(ろうかい)さを感じさせるものの、子どものように感情が豊かで、愛嬌があるのも事実だ。

 ナギが、ソウのとなりへ腰をおろす。ざぷりと揺れた湯は、しばらくするとなだらかな星空をきらめかせた。

「旅の疲れは、おいしいご飯とゆったり時間で癒すにかぎりますねぇ」

「もっと人がいるかなって思ってたんだけど」

「みんな開会式を観に行ってるか、あとは露天風呂付きの高級客室でゆっくりしてますよ」

 遠くからド、ドンと空気を打つような音が響いた。

「祭り、いよいよはじまりましたねぇ」

「オクリビって言うんだっけ」

 ソウが訊ねるとナギは煌々と灯りを抱きしめる〈ユウメの大舞台〉へ身体を向けた。

「オクリビは、いわゆる儀式の名前です。七日間ある祭りのうち、六日目の晩から、七日目の終わりまでのことを指します。伝説にちなんで、魔灯(マトウ)の実に願いをこめて空へ送る。そうすると、竜人さまが願いをきいてくれるのだそうですよ」

「魔灯の実?」

「ええ。袋状になっている木の実なのですが、魔素反応で発火する性質をもっているのですよ。その熱気が、種を覆う袋にたまると、空へ浮かんで、うんと遠くまで運ばれるんです。いってしまえば、生存戦略の一種ですね」

憂国(うれいぐに)では見ないから、不思議な感じ」

「種類によっては、発火せずに水分との接触反応で光るものもあって、年間降水量の多い水瑠地方では昔から照明の代わりに使われているのですよ。今回は時期が合わなくて見られませんでしたけど、流国(ながれぐに)なんかは発火種と水光種の両方があって、季節の変わり目にいっせいに種が放出されるんです。とっても奇麗なんですけど、あまりにも数が多いせいで、外の仕事もできなくて。その時期になると地元の人はみんな、家にこもりっきりなんです」

 へぇ、とうなずきながら、ソウは脳裏に思いえがいてみようとしたものの、うまくいかなかった。ナギにはその光景が見えているのだろうか。水のしたたるあどけない横顔を眺めてみる。茫洋とした翡翠色は、ユウメの大舞台を見つめてちいさく「懐かしいですねぇ」とつぶやいた。ドン、ドドド……祭りの音が夜空へ響く。湯の熱と皮膚が同化したころに、ソウはふと訊ねた。

「ナギさんは、願い事ある?」

「ナギは、おいしいご飯が食べられて、それをみんなで囲めたら嬉しいなって思います」

「それがナギさんの願い?」

 はい、とナギは屈託なく微笑んだ。

「生きていないと、いっしょにご飯も食べられませんから」

 おもわず、その翡翠色を見つめる。この瞬間、ナギの奥底にあるものを垣間見たような気がしたからだ。容赦のない生命(いのち)の生き死に。それが、彼の思考のどこかで、常に存在しているのではないだろうか。

 湯気になじんだ視界を起こして、二人は更衣室へ戻ることにした。先に上がったナギに合わせて、ソウもまた夜風に身をさらす。そのときにふと、なにか見えたような気がした。目をこらす。とびこんできたのは、白けたみみず腫れだった。

「ナギさん、それ」

 ソウは、ナギの足首を視線で示した。

「なにか?」

 ナギは平生(へいぜい)と首をかしげた。訊ねられた理由がわからないとでもいうように、きょとんと眼を丸くする。これまでの旅で、ナギの運動能力についての不器用さは疑いようもなかったが、その古傷だけはまるで事情がちがう気がした。両足首の同じ位置に、ためらいなく引かれた傷。これはたとえば事故であったり、魔種や獣に襲われてついたもののようにはとうてい見えなかった。――まるで、人為的に裂かれたような。

「もしかして心配してくれてるんですぅ?」

 ナギは茶化すようにいいながら「誰につけられたのかも、もう覚えてないんですよ」とけらけら笑った。まるでもう、あたりまえだからずっと忘れていた、とでもいうように。気丈にふるまっているわけでもなく、ただ本当にふつうのこととして、ナギは古傷が存在していることを受け入れているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ