(八)ライの日記 三
兄貴、
兄貴が、生きてた。
最初にその報せを聞いたとき、嘘だって思った。でも嘘じゃなかった。通信機から、兄貴がおれの名前を呼んで、「頼んだ」って、言ってくれたんだ。
兄貴の声だった。
泣いた。
いっぱい泣いた。通信が終わって、家に帰って、夜が来ても、泣いた。
兄貴、おれ、がんばるよ。
兄貴が絵を見たいって言ってくれたから、兄貴のために描こうって思った。
前にさ、兄貴が「リビングの壁が寂しい」って言ってたの思いだして。それでおれ、ロッタ叔母さんに相談したんだ。ロッタ叔母さんは、いいよって言ってくれた。だから、そこに絵を描こうって思って……どうだろ、怒られちゃうかな。それとも、笑ってくれるかな。
なにを描くのがいいかな。兄貴が帰ってくるのは、まだ先――春、かな。
おれさ、知ってるんだ。兄貴がときどき、庭先のギンヨウアカシアを眺めて、やさしい顔してたこと。母さんが好きだったギンヨウアカシア。兄貴も、好きなのかなって、思ってて。
だから、決めた。
兄貴に、いっぱいのギンヨウアカシア見せられるように。
兄貴にありがとう、って伝えられるように。
おれ、がんばるから。
だから、ちゃんと、帰ってきてね。




